プロパイロットの設定を期待したのだが……
日産の販売店にエルグランドのマイナーチェンジについて尋ねると、以下のようにコメントした。
「今はお客様の安全意識が高まり、各種の安全装備を組み合わせた360度セーフティアシストの採用は、メリットも大きいです。
特に2台先を走る車両の検知機能は、デイズを含めて幅広い車種に採用され、日産の代表的な安全技術になっています。その半面、プロパイロットは設定がありません。
エルグランドはLサイズミニバンなので、長距離を移動するお客様も多いです。プロパイロット、あるいはスカイラインに用意されるハンズフリーのプロパイロット2.0を選べると喜ばれたでしょう。
このほか今の日産車には、デイズを含めて通信機能が増えており、エアバッグ連動式のSOSコールも装着できます。これらの先進機能をエルグランドにも採用して欲しいです」。
ライバル車のアルファード&ヴェルファイアでは、通信機能が全車に標準装着され、エアバッグ連動型のヘルプネットも利用できる。衝突被害軽減ブレーキは、昼夜の歩行者に加えて、昼間の自転車も検知する。
現行アルファード&ヴェルファイアは前述の通り、2015年に登場したが、2017年、2018年、2019年にも改良を行って安全装備などの商品力を向上させてきた。
高価格車でありながら好調に売れるため、トヨタにとってコストを費やしても改良を行う価値が高い。それを実践した結果、売れ行きがさらに伸びる好循環が生まれている。
対するエルグランドは、現行型を2010年に発売して、2012年の売れ行きは(2011年は東日本大震災で国産全車の売れ行きが落ち込んだ)、1200台前後であった。
アルファード&ヴェルファイアに需要を奪われた影響もあり、発売早々に売れ行きが低迷している。
アルファード&ヴェルファイアを比べてどうか?
その一番の原因は、アルファード&ヴェルファイアに比べて、Lサイズミニバンらしさが乏しいことだ。要素は複数ある。
まず外観だ。現行アルファード&ヴェルファイアは、プラットフォームを刷新したから、床を低く抑えて、乗降性や走行安定性を向上させることも可能だった。
しかしあえてそれをしていない。開発者は「お客様が周囲を見晴らす感覚を好むので、視線の位置を下げたくない。そこで床の高さも、従来に近い設定にした」と述べている。
周囲の見晴らし感覚に加えて、背の高い上級ミニバン独特の存在感(あるいは威圧感)も重視したのだろう。
そこで極端にいえば観光バスのように床を高め、見晴らしを良くするとともに、全高も1935~1950mmに設定して外観の存在感を強めた。
エルグランドは、これと逆の商品開発を行っている。現行型で従来の後輪駆動から前輪駆動に変更したこともあり、全高を1815mmに抑えた。外観はスポーティになったが、存在感は乏しい。
それなのに床の高さはあまり下げていないので、室内高が不足した。アルファード&ヴェルファイアの室内高は1400mmだが、エルグランドは1300mmだ。車内に入った時の頭上の広々感が異なる。
しかもエルグランドの3列目シートは、床と座面の間隔が不足して、膝の持ち上がる窮屈な着座姿勢になる。アルファード&ヴェルファイアに比べると、3列目の居住性が大幅に見劣りする。
3列目の格納方法も異なる。アルファード&ヴェルファイアは、左右に跳ね上げる一般的な方式だから荷室高を十分に確保できるが、エルグランドは3列目を前側に倒すタイプだ。
これでは格納時に3列目の厚みだけ荷室の床が持ち上がり、荷室高はさらに乏しくなる。アルファード&ヴェルファイアなら、3列目を格納して自転車を縦に積むことも可能だが、エルグランドでは難しい。
このように立派な外観、車内からの見晴らしのよさ、3列目を含めた多人数乗車時の快適性、広くて使いやすい荷室などは、すべてLサイズミニバンの大切な価値だ。
アルファード&ヴェルファイアは、この点に力を入れて売れ行きを伸ばし、スポーティな価値を求めたエルグランドは低迷している。
エルグランドがこれらの不満をすべて改めるには、フルモデルチェンジを行わねばならない。マイナーチェンジでは限界がある。
そしてもうひとつ、エルグランドにはハイブリッドシステムも欠けている。
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