世界を相手に渡り合うフラッグシップカーや新車市場でランキングトップを争うエース車、そのメーカーのイメージを牽引する代表車があれば、当然「そうでないクルマ」も存在する。
華やかに自動車専門メディアの表紙を飾り、何かニュースがあれば試乗記や紹介記事がアクセスを重ね、多くの人々に愛され、憧れるクルマがある。そのいっぽうで、似たコンセプト、似たカテゴリーながら、地味なモデルは存在する。
当サイトは、そうしたクルマが大好きです。確かに華やかなクルマはキラキラしていて、ニュースを振りまき、多くの人々を惹きつけます。
しかしそうでない、地味で日陰のクルマにだって魅力はある! そう信じて、「華やかなクルマの陰に隠れがちだけど、いいクルマ」を紹介し、その魅力を分析していただきました!
企画の便宜上「地味(だけど)」と書きましたが、それはあくまで(花形車と比べた場合の)「比較的」ということ。どのモデルも乗れば全然地味じゃありません!! ぜひ新車購入の際には「候補」に加えてみてください!!
文:渡辺陽一郎
■日産GT-Rの陰に隠れるフェアレディZ

フェアレディZは、本来なら日産が開発するスポーツカーの主役だが、最近はGT-Rの陰に隠れた印象を受ける。
両車とも初代モデルの発売は1969年で、フェアレディZは直列6気筒エンジンを搭載する最先端スポーツカーとして大ヒットした。
発売当初は固定相場制で1ドルが360円の超円安時代だから、対米輸出モデルも好調に売れている。対する(スカイライン)GT-Rは、モータースポーツの参戦を視野に入れたエボリューションモデルであった。
その後もフェアレディZはスポーツカーの主役として歩んだが、近年はボディが大型化して日本の市場に合わなくなった。外観には原点回帰の傾向も見られるが、現行GT-Rが性能を大幅に高めて強いインパクトを身に付けたから、フェアレディZは中途半端に受け取られてしまう。
しかしフェアレディZはV型6気筒3.7Lエンジンを搭載する後輪駆動の本格スポーツカーだから、最高出力は336馬力、最大トルクは37.2kg-mと強力だ。
その一方でホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2550mmと短く、ボディが大柄な割には機敏に曲がる。発売から9年を経て走行安定性と乗り心地には古さを感じるが、峠道の走りで感じるスポーツカーの楽しさは健在だ。
そしてフェアレディZはスポーツカーでは価格が安い。スポーツ指向の装備を充実させたバージョンSが476万640円、標準仕様の6速MTなら390万7440円だ。
現行GT-Rの発売時点の価格は777万円だったが、今ではピュアエディションが996万840円に達するから、フェアレディZは半額以下に収まる。ロードスターRFのRSに近い。
また同等の性能を備えたスポーツカーにはレクサスRC350があるが、内外装が高コストで装備も充実するから価格は599万2000円だ。今のフェアレディZは以前に比べて肥大化したが、買い得で楽しいスポーツカーという性格は守り続けている。
■トヨタプリウスの陰に隠れたオーリスハイブリッド

オーリスは欧州市場を視野に入れて開発された3ナンバーサイズのミドルハッチバックだ。現行型の発売は2012年で、海外仕様では同じ年にノーマルエンジンと併せてハイブリッドも用意した。
ところが日本では2012年に発売されたのは1.5Lと1.8Lのノーマルエンジンだけで、2015年に1.2Lターボ、2016年になってからハイブリッドを加えている。タイミングが明らかに遅すぎた。
しかも2015年にはプラットフォームを刷新した現行プリウスが発売され、価格は売れ筋のSが247万9091円だ。オーリスハイブリッドは262万473円だからプリウスに比べて約14万円高く、サイド&カーテンエアバッグはオプション設定だからさらに差が開く。設計が古く価格も割高では、プリウスの陰に隠れて当然だ。
しかしオーリスハイブリッドはプリウスよりも運転がしやすい。全幅は1760mmで等しいが、全長は210mm短く、後方視界もプリウスより優れているからだ。前後席の居住性には大差がなく、オーリスも大人4名の乗車に対応できる。
走行安定性の味付けも異なる。プリウスの操舵感は、現行型では少し機敏で良く曲がるが、後輪の接地性が相対的に下がる。その点でオーリスハイブリッドは、操舵感は少し鈍めだが後輪の接地性が相応に高い。
このようにオーリスハイブリッドは、外観のデザインから運転感覚まで、プリウスに比べるとクセがなくて扱いやすい。