クルマ販売の世界は諸行無常、盛者必衰のことわり……。
2017年も儚く生産中止になっていったモデルたちが存在するワケだが、本企画ではそんな「物故車」をクローズアップしてみました。
華やかに登場する新型車のニュースの合間に、ふとこのページを見て、「ああ、こんなモデルもあったね」と思い出していただきたい。
ナビゲート役および戒名を付けてくださったのは、本企画適任者である清水草一氏だ。
文:清水草一
※総販売台数は2017年10月末時点のものです
■トヨタウィッシュ(2003〜2017年)総販売台数26万190台(2代目)
戒名:挙母院似心無味無臭信士
初代ウィッシュの登場は、2003年のことであったのう……。
当時本邦では、1994年に登場したホンダオデッセイが、予想外の大ヒットを飛ばしておったわい。
1996年には初代ステップワゴンも発表され、ミニバンは徐々に箱型が主流になっていったのだが、なにせオデッセイはミニバンブームのきっかけを作ったクルマ。1999年登場の2代目も、比較的車高が低いスポーティなフォルムを維持したものじゃ。
が、オデッセイは3ナンバーの幅広ボディ。当時は5ナンバーサイズを待望する声が大きく、それに対応して登場したのが、ホンダストリームだったのであるな。うむう。
狙いどおり、ストリームは大ヒットとなった。こうなると二匹目のドジョウを狙わないテはない。ストリームの登場から2年余後、トヨタは満を持してウィッシュを投入。
それはフォルムからボディサイズから、何から何までストリームに瓜ふたつであった。
一部クルマ好きは「いくらなんでもヒドイ!」と憤ったが、一般ユーザーにはそんなことはどうでもいい。販売力に勝るトヨタのウィッシュは、あっという間にストリームを蹴散らし、クラスナンバーワンの座を得たのであった。
しかしその後、スポーティタイプのミニバンは、徐々に需要を減らしていった。技術の蓄積で箱型でも走行安定性を確保できるようになってきたため、ならあえて室内が狭いミニバンを選ぶ理由はない。
ミニバンは広ければ広いほどイイ! そういう欲深な者どもばかりになっていたのじゃ。
ストリームもウィッシュも、2代目にバトンタッチした頃にはブームは去っていた。そして、ストリームは2014年に、ウィッシュもついに今年生産終了となり、天寿をまっとうしたのである。
思えばウィッシュは、ストリームのマネから出発し、これといった美点もなく、ただ消費されるのみの白モノ家電的ミニバンであった。
その消滅を惜しむ人もほとんどいない。むしろクルマ好きには「やっと死んだか」くらいのことを思われている(私を含む)。
しかし、トヨタ車だけに信頼性は抜群。今後は、比較的不人気で相場の安い中古車として、どうでもいい用途に大活躍するであろう。南無妙法蓮華経。
■トヨタFJクルーザー(2010〜2017年)総販売台数2万6210台
戒名:羽村院懐古心観音扉院
FJクルーザーは、もともとは北米市場専用車種として開発された、遊びゴコロ満点のSUVであったぞえ。
ベースはランクルプラドながら、ランクル40を思わせる丸型ヘッドライトを装備するなど、レトロでオモチャ的な外観を纏っておった。
リアドアは小型の観音開き。また、垂直近くに立ったフロントウィンドウは近年極めて珍しく、テリー伊藤氏もその点に強く反応、絶賛を得た。
北米市場への投入は2006年だったが、直後から日本へも並行逆輸入が始まった。その個性的な外観には、当初から熱心なファンがおったのだ。
その要望に応える形で’10年末、ついに日本でも正規販売が開始された。これはなかなかに異例の経緯。倭寇が日本に攻めてきたとでも言おうか。
日本市場には、右ハンドル仕様の5速AT、4WD車が投入されたが、プラドに対して大幅に安い価格設定は、トヨタから若年層へのプレゼント的意味合いがあったといわれる。
トヨタはFJクルーザーで、あまり儲けようとはしなかったのだ。これは特筆に値する徳行であろう。
日本での弱点は、1905mmもある全幅と、V6、4Lエンジンの燃費の悪さであった。また、「やっぱりホンモノはランクル」という固定観念もあり、それほど販売を伸ばすことはなく、結局キワモノ的存在ではあった。
生まれ故郷の北米市場では、2014年に販売を終了。日本市場でも昨年8月かぎりで生産終了することが一部メディアで発表されたが、結局来年初頭まで生産が継続されるらしいが、ワシはよくわからん。
FJクルーザーは、結局グローバルでは12年という長寿を得たワケで、これはほかのモデルにはない個性的な成り立ちによるものであった。
個性的すぎて後継モデルが開発されなかったが、だからこそオンリーワンとして、人々の記憶に長く残ることになるであろうて。ふむふむ。
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