1992年に登場した、三菱ランサーエボリューションシリーズ。2016年に限定1000台で販売されたランサーエボリューションXを最後に、現在は途絶えている。
2017年には、東京モーターショーに、BEVの4WDスポーツSUV「e-エボリューション」がコンセプトモデルとして出展され、「これが次世代ランエボか!!」と、ファンは沸き立ったが、当の三菱からは、現実的な新型モデルの話は、何も聞こえてこない。本稿では、三菱がランエボを復活させる可能性はあるのか、考えてみようと思う。
文:吉川賢一
写真:MITSUBISHI、ベストカー編集部
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進化し続けた、ランエボ
まず、三菱ランサーエボリューションシリーズについて、さらっとおさらいしよう。初代ランサーエボリューションは、「ギャランVR-4」の後継車として93年シーズンに世界ラリー選手権(WRC)デビュー。熟成した4G63ターボエンジンと、ワンウェイクラッチの機構を取り入れた独自の4WDシステムを武器に、スポット参戦を開始。
そして、94年シーズンには「エボリューションII」へ、95年シーズンには「エボリューションIII」へと進化。第2戦のスウェーデンにて、1位にケネス・エリクソン、2位にマキネンと、三菱のワンツーフィニッシュを達成した。
その強さは96年シーズンで大爆発する。エボリューションIIIに乗ったマキネンが9戦中5勝でドライバーズタイトルを獲得。翌97年シーズンはエボリューションIVと進化し、この年も4勝を記録したマキネンは2年連続のドライバーズチャンピオンを獲得。
98年シーズン中にデビューしたランサーエボリューションVでも4勝を挙げ、ドライバーズタイトル3連覇と、三菱初のマニュファクチャラーズタイトルをもたらした。
そして99年シーズンはランサーエボリューションVIとなり、この年もマキネンがドライバーズタイトルを獲得、4年連続ドライバーズチャンピオンという快挙を成し遂げている。
何とも華々しい戦果を挙げたランサーエボリューションシリーズだが、当時経営再建途上にあった三菱は、リソースを経営再建策に集中すべき、と判断し、2005年シーズンをもってWRCから撤退。エボリューションシリーズは最終的にX(10)まで続き、公道最強モデルとして2016年まで販売は継続持されていた。
つくること自体は、難しくない
先日、新型エクリプスクロスPHEVの試乗会に参加させていただいた。通常、4WDの説明をしていただく際、前後デフやセンターデフの構成パーツを説明する程度で済まされることが多いのだが、この時は、なんと演算ロジックの概要まで踏み込んだ説明をしてくれた。
例えば、「左右前後Gに対する、前輪後輪トルクの理想配分」のようなS-AWCの考え方が、ロジカルに定義できている部分などからは、「三菱が理想とする運動性能」がしっかりと感じ取れる内容であった。
流石に、設定パラメーターが開示されることはなかったが、本来ならば秘密にするような部分まで、隠さずに説明していただいたのには、大変驚かされた。技術に自信がなければできないことだ。
これらは、ランエボの4WD制御開発時代から担当されてきた、三菱自動車のEV・パワートレイン技術開発本部 チーフテクノロジーエンジニア 澤瀬薫氏をはじめとする、エンジニアの方々の積み重ねの成果であり、開発チームの技術力を見せつけられた、非常に印象的な出来事であった。
また、それらを実現する制御デバイスも、エクリプスクロスPHEVのパワートレインに使われている(アウトランダーPHEVとも共通)、前後一基ずつの高出力モーター、大容量駆動用バッテリー、2.4リッターMIVECエンジンで構成するツインモーター4WD方式のPHEVシステムなど、複雑な駆動トルク配分機構を使っていたランサーエボリューションXの頃とは比較にならないほどに、制御の振り代も増えている。
BEVとして出る説や、エボリューション-eに似たクロスオーバーSUVになる説など、クルマの形式については、様々な憶測が飛び交っているが、「運動性能」という側面だけを考えれば、「エボリューションの名に恥じぬ運動性能」をつくりこむことは、三菱の開発エンジニア達にとっては、そう難しいことではないだろう。
だが、新モデルが「ランエボ」となるために、どうしても足りないのが「目標」だ。
状況さえ整えば、チャレンジしてくるはず
「目標」とは、具体的にいうと、「活躍の場」だ。かつてのランエボ人気は、「WRCで世界一になる」という目標に向かい、毎年マシンを進化させ、挑み続ける姿があったからこそ、ファンは感情移入し、憧れを抱いていった方が多かったのではないか、と思う。
どれほど素晴らしいクルマが完成し、「エボリューション」の名が付けられたとしても、「活躍の場」と「ファンが感情移入できるシナリオ」がなければ、かつてのような「ランエボ・ムーブメント(流行)」を起こすことは難しい。「モノ」ができても「コト」が伴っていないのだ。
WRC黄金世代を知る筆者としては、かつてのように、「WRC(もしくはそれに準ずるようなモータースポーツ)で世界一」を目指すような気概を、三菱にもってほしい、と思ってしまうところだが、リソース(ヒト、モノ、カネ)の状況を含め、新型エボの「目標」を言い張れる状況にはない、というのが三菱の現状であろう。
トヨタは2017年、18年ぶりのWRC復帰を実現しているが、事業好調なトヨタだからこそ、できたことだ。
しかし逆にいえば、状況さえ整えば、チャレンジしてくる可能性はある、ということだ。そして、三菱のエンジニアたちは、日々技術を磨きつつ、虎視眈々とそのときがくるのを待っていることだろう。ファンとしても、そのときが訪れるのを、楽しみに待っている。三菱自動車を全力で応援している。