「ドイツ車はハンドルが重たい、国産車はハンドルが軽い、アメ車はプラプラ」――。油圧式パワーステアリングが主流だった10年ほど前までは、ステアリングの操舵力について、このようにいわれていました。
現在はパワーステアリングが電動式へと置き換わったこともあり、極端な操舵力の違いは少なくなってきましたが、それでも、国ごとの速度レンジや、クルマの使用環境によって、操舵力の特性には違いがあります。
単純に「重い、軽い」というだけでなく、実は奥が深い操舵力。今回は、操舵力の重さと軽さのバランスや、トレンドの話、そして、国産車よりも輸入車がしっかりしているように感じる理由など、操舵力のあれこれについて、ご紹介していきます。
文:吉川賢一
写真:BMW、Mercedes-Benz、VW、TOYOTA、SUBARU
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電動パワステの登場で、できることがぐっと増えた
「操舵力」とは、走行中ハンドル回すときに、ハンドルの周方向から手の平が受ける力のこと。同じようにステアリングに関する用語で、ハンドルを回した位置で保持する力を「保舵力」といいます。
近年の操舵力のトレンドは「据え切り時は軽く、車速が高いときには操舵力を増し、保舵力は軽くする」という設定です。
例えば、一部のスポーツカーを除いて、BMWやメルセデス、アウディ、フォルクスワーゲンなど、欧州車メーカーは、現在はこのトレンドにのっています。この設定は、かつて油圧式パワーステアリングの時代にはできなかったことです。
油圧式パワステは、ドライバーがステアリングを回すと、ハンドルから前方に伸びているトーションバーという接手にトルクがかかり、捩じれによって生じた隙間にパワステオイルが流れ、ピニオンギアの回転力をアシストし、ラックギアを摺動させます。
このオイルの流路が広ければアシスト力を大きくでき(=ハンドルは軽くなり)ますが、トーションバーを大きく捩じることになるため、今度はハンドル操作のダイレクト感が失われてしまいます。
高速道路を200km/h近い速度でかっとばしたり、道が荒れた郊外路を走行する欧州車では、微妙な修正操舵が効くよう、ハンドル操作のダイレクト感を優先していました。
そのため、むやみにトーションバーの捩じり剛性を落とすことができず、ハンドルの操舵力は重たくならざるをえませんでした(操舵力はキャスタートレイルのようなサスジオメトリも影響大ですが今回は割愛)。
それが、電動式パワーステアリング(以下EPS)の登場によって、車速やハンドルを切る量に応じて、油圧パワステよりも、幅広く操舵力の特性をチューニングできるようになりました。
低速では軽めの操舵力で楽に運転し、高速走行時は重めの操舵力で高い走行安定性を保つ、しかも保舵力は軽めにできるので疲れにくい。EPSの登場という技術のブレークスルーによって、かつてはできないことが解消されたのが、現在の操舵力特性なのです。
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