現代は目立たないかたちで織り込まれている
巨大なリアウイングが流行した90年代当時は、まだ今ほど詳細なエアロダイナミクスのシミュレーションができていなかった。レーシングドライバーやテストドライバーの声を聞き、開発エンジニアが経験と勘で形をつくり込み、実走テストで決めていたようだ。
近年、あの大きなリアウイングを見かけなくなったのは、シミュレーション技術の進化によって、床下やボディの形状を工夫することで、リフトフォースを低減できることがわかったためだ。
リアウイングは、ダウンフォースと共に、大量のドラッグ(空気抵抗)を発生する。現代の空力シミュレーションでは、ダウンフォースの増大と、ドラッグの低減を、いかにバランスよく改善させられるかに注力している。
ボディ表面を流れてきた気流が、ボディのどのあたりから剥離して渦となって飛んでいくのか。流体シミュレーションと実験検証を行い、フロントバンパーに空けたエアインテークや、サイドシルのライン、テールランプ形状、そして床面のフラット化など、目立たないかたちで織り込んでいる。90年代はできなかった技術が、現代は織り込まれているのだ。
後方視界を妨げるような巨大なリアウイングを使わずとも、同等以上の効果を発生できるのであれば、あえてリアウイングにする必要はなくなる。時速300km/hを超える速度を出すR35型GT-Rが、あれほど小さなリアウイングで済んでいるのは、そのためだ。
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