■王女の休日を彩ったあのクルマ
さて、そうやって“ローマの休日”を満喫するアン王女の足となるのが、ジョーが調達したヴェスパであり、カメラマンの小さな車フィアット500である。
このフィアットは1936年式の初代フィアット500で、これがなんとも愛らしい。入り組んだローマ市街地を、“トポリーノ(ハツカネズミ)”というあだ名の通り自由自在に走り抜ける。
基本的にはツーシーターなのだが、狭い後部に体の大きいジョー役のペックが乗り込み3人で走るシーンがある。このシーンが楽しいのは、身体の大きなペックの肩から上が、フィアット500で有名なキャンバストップから飛び出ているところ。
車が止まった際には、その場で立ち上がり、手を伸ばしてアンのためにドアを開けるという、普通ならありえないワザ(?)も見せてくれる。運転しているカメラマン役、エディ・アルバートも大柄なので、コンパクトカーとのコントラストが楽しい。
■乗り物のキャスティングも絶妙!
このフィアット500、映画に登場するときはなぜか大柄の男が運転している場合が多い。
たとえばリュック・ベッソン監督のヒット作『グラン・ブルー』(1988)ではダイバー役で出演しているジャン・レノの愛車(2代目フィアット500)として登場している。塗装も剥げたボロボロ状態だが、それでもそのシェイプは愛らしく、レノの大きな体となぜかマッチ。
ペックと同じように同乗している弟とキャンバストップから顔を出している。もしかしたらこのフィアットとのコントラスト、『ローマの休日』の影響かもしれないと考えると、ちょっと楽しくなる。
フィアット500が日本でも有名でファンが多いのは、あの『ルパン三世』のルパンの愛車(2代目)だからだろう。モンキー・パンチの原作には登場してないのだが、アニメの設定ではこの車になっている。
というのも、本シリーズのアニメーターを務めた故・大塚康夫氏の愛車だったからなのだが、そのおかげでキャンバストップから次元が体を乗り出し銃をぶっ放したりアクションが面白くなったと言えるだろう。
ちなみに同作のもうひとりのアニメーター&演出家でもあった宮崎駿の実際の愛車はシトロエンの2CV。彼の長編監督デビュー作『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)では、ヒロインのクラリスの車として登場する。アニメーションの監督もクルマ愛に満ちているということだ。
話がそれてしまったが『ローマの休日』は、そういうわけでフィアット500の印象がとても強い。市街地を走っている車の多くもフィアット500で、いかにこの車がイタリアの人たちに愛されていたかも伝わって来る。
これをもしハリウッドで撮影していたら、ヘップバーンが出演出来なかったことと同じように、フィアットの出る幕もなかったかもしれない。
●解説●
本作は10部門でアカデミー賞にノミネートされ、ヘプバーンの主演女優賞、衣装デザイン賞、原案賞を受賞した。
まだ新人だったオードリー・ヘプバーンを一気にスターダムに押し上げた記念すべき作品で、彼女は以来、その人気を63歳で亡くなるまでキープし続けた。
さまざまな逸話が残っている本作だが、監督もフランク・キャプアからジョージ・スティーブンスへと移り、ウィリアム・ワイラーで落ち着いた。
新聞記者役もケイリー・グラントからグレゴリー・ペック、そしてアン王女役にはエリザベス・テイラーやジーン・シモンズ、デボラ・カーやジャネット・リー、果てはフランスのジャンヌ・モロー、イタリアのセクシー女優、ジーナ・ロロブリージダと国籍を問わず、何十人もの候補者がいたと言われている。
結局は一番いいコンビネーションで収まったことになる。
リベラルだったワイラーがアメリカから離れてヨーロッパで撮影を希望した理由のひとつには当時、ハリウッドで吹き荒れていたマッカーシズム(反共運動)から距離を置きたかったからでもある。
実際、本作の脚本を書いたのは、そのマッカーシーによる赤狩りでハリウッドを追われた名脚本家ダルトン・トランボ。名前が出せなかった彼は、協力してくれた友人の脚本家の名前をクレジットし、彼が代わりにアカデミー原案賞を獲得することになった。
トランボにオスカー像が与えられたのは、彼が亡くなって17年目の93年(92年説もある)。映画の冒頭のクレジットも、オリジナル公開から50年近くを経た02年の修正版でやっとトランボの名前が刻まれた。
『ローマの休日』は、そういうハリウッドの黒歴史を反映していることでも、映画史的に意味がある作品なのである。
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『ローマの休日』
DVD:1,572円(税込)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
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