今や自動車は電動化まっしぐら。厳しい環境規制もあり、国産・輸入を問わず各メーカーの電動化シフトは進みつつある。
ただ、今のところ庶民の足としてはまだコスト等に課題があり、他方、性能面でもエンジン車の優位性は未だに残る。とはいえ、今後はその優位性は徐々に薄らいでいくだろう。
つまり、今は技術として熟成されたエンジンを味わえる最後の時代という見方もできるかもしれない。そこで、本稿ではトヨタからダイハツまで国産8メーカーが開発してきた歴代エンジンの中から珠玉の1台をノミネート。
いずれも電動化で失われるであろう、個性的なエキゾーストノートを奏でる「名機」である。
文:鈴木直也、片岡英明
写真:編集部、TOYOTA、MITSUBISHI
ベストカー 2019年7月10日号
トヨタ&レクサス/A80スープラ「NAも抜群の出来」

1位は80スープラのNAエンジン(2JZ-GE型)。
80スープラといえばターボエンジン(2JZ-GTE)のイメージが強いけど、ぼくがベストと思うのはNAのほうだ。
NA版は225ps/29.0kgmと、スペックはそこそこだが、6000rpm以上までフラットに伸びてゆくトルクカーブが秀逸。
スープラ用2JZ-GEは標準でステンレスタコ足装備だったので、金属的なエキゾーストサウンドが気分を盛り上げてくれるのも心地よかった。
次点は6代目と7代目のレビン/トレノが積んだ5バルブの「4A-GE型」。
1980年代にヤマハがレース用エンジンやバイクで気筒あたり5バルブをトライしていたけど、それを4輪に応用した唯一の例。吸排気系はほとんどレース仕様で、165ps/7800rpmと量産エンジンとしては異例の高回転型に仕上げられていたのがいいね。【鈴木直也】
日産/R32スカイラインGT-R「直6の最高傑作」

最高傑作といえば、1989年8月にR32スカイラインGT-Rに積まれて登場した直列6気筒DOHC4バルブエンジン「RB26DETT型」だろう。
排気量は2568㏄で、セラミックローター採用のツインターボは、当時としては驚異的な280ps/36.0kgmを発生した。
ナトリウム封入の中空エキゾーストバルブやクーリングチャンネル付きピストンなど、レーシングテクノロジーを駆使して設計され、レース仕様のエンジンは600psまでパワーアップされている。そこまでチューニングしても壊れなかったのだから、凄いエンジンだったと思う。
次点は迷ったが、現行ノートに搭載される1198ccの「HR12DDR型」直列3気筒DOHCを選んだ。
DIG-S「エコスーパーチャージャー」を組み合わせ、高膨張比のミラーサイクルと高圧縮比によって優れた燃費を実現している。【片岡英明】
ホンダ/初代NSX「専用としてすべて再設計」

ベストは初代NSXのV6エンジン(C30A型)。
ベースとなったのは初代レジェンド用V6だけど、バブル全盛期らしくNSX専用としてすべて再設計。その徹底ぶりを象徴するのがチタンコンロッドの採用だ。
800万円という発売当時のNSXの価格は、今でいうと2000万円クラス。コストに糸目をつけず、いい部品があれば全部採用する……。現在とはまったく違うクルマ作りの環境がそこにはあったのだ。
そして、NA高回転型のVTECにこだわるホンダが、その集大成として最後に作ったのがS2000用の「F20C型」エンジン。これが次点だね。
250ps/8300rpm、22.2kgm/7500rpmというスペックは、もはや意地になっているとしか思えない数字で、「NA2Lでどこまでいけるかやりたかった」としか思えない。2L最強のタイトルが欲しかったのだろう。【鈴木直也】
三菱/ギャラン&レグナム「革新的だったGDI」

三菱にはエンジンの名作が多い。世界最小のV型6気筒エンジンを生み出したし、軽自動車にはDOHC5バルブエンジンを積んでいる。
が、最も強烈な印象を残したのは、ギャランとレグナムに搭載されて1996年に登場した直列4気筒DOHC筒内直接噴射エンジン「4G93型」だ。通称『GDI』エンジンである。
燃焼室に直接ガソリンを噴射し、空燃比35〜40という超希薄な混合気でも安定した燃焼を可能にした。
電磁式のスワールインジェクターは、50気圧もの高圧で燃料を噴射し、クリーンな排ガスと優れた燃費を実現している。今につながるクリーンエンジンの先駆けとなった。
次点はランサーエボリューションシリーズに搭載された1997㏄の直列4気筒DOHC「4G63型」だ。メカは平凡だがターボによってクラストップレベルのパフォーマンスを実現している。【片岡英明】
マツダ/ユーノスコスモ「唯一無二の3ローター」

マツダのブランドヘリテイジといえばロータリーエンジン。その最高峰がユーノスコスモに搭載された3ローター「20B-REW型」。これがベストでしょう。
分割エキセントリックシャフトという技術的なハードルを乗り越えて量産化したこの3ローターは、抜群にスムーズな回転フィールとシーケンシャルツインターボによる強烈なトルクが印象的。
当時「スムーズさではV型12気筒エンジンに匹敵する」と言われていたが、それはけっして誇張ではなかったといえる。
次点はユーノス800の「KJ-ZEM」型。今では珍しくなくなったミラーサイクル(高膨張比サイクル)を世界で初めて量産化した。
遅閉じバルブタイミングによる吸気不足を補うためV6のバンク間にリショルムコンプレッサーを装備。燃費は狙ったほどよくなかったが回転フィールとトルク特性は抜群。スムーズで上質感のあるエンジンだった。【鈴木直也】
スバル/WRX STI「誰もが認める名機」

スバルの名機といえば、やはりWRX STIに搭載されている「EJ20型」水平対向4気筒DOHCターボだ。昭和の時代に設計されたエンジンだが、モータースポーツの世界で徹底的に鍛えられ、今も現役だ。
ビッグボア設計のオーバースクエアエンジンで、高回転の鋭い伸びとパンチ力は最新設計のエンジンを凌ぐほど強烈。量産エンジンでありながら8000回転まで使いきれ、エンジンサウンドも耳に心地よい。
次点は水平対向6気筒エンジンの秀作、排気量3318㏄の「EG33型」ボクサー6を推す。
EJ20型と同じセンタープラグ配置、ペントルーフ型燃焼室を採用し、こちらもビッグボア設計としてバルブ面積を大きく取った。
240ps/31.5kgmを発生し、ATでも6000回転までドラマチックに回る。水平対向エンジンは振動が少ないのが特徴。6気筒は静粛でも群を抜く。【片岡英明】
ダイハツ/ブーンX4「競技で磨かれた名機」

ダイハツはラリー活動に長い伝統を持っていて、ホモロゲーション用に時々えらくスポーティな車を作る。
ブーン X4は当時のラリー/ダートラで1.6Lクラスに参加できるように排気量を936ccに縮小した直4ターボエンジン搭載の4WDスポーツ。133psにチューンされた「KJ-VET型」エンジンはかなりピーキーな性格で、それに合わせたクロスレシオ5MTのみの設定だった。これが1位です。
まだ独自色が強かった1980年代のダイハツは、3代目シャレードで「1Lクラス最強」というコンセプトを設定。最強モデルのGTti用に、専用の1L、3気筒ターボ「CB70型」エンジンを開発する。
今の感覚だと105ps/13.3kgmというスペックに驚きはないが、当時は車重も800㎏足らずと軽量。試乗してその俊足ぶりにびっくりした記憶が残っています。【鈴木直也】
スズキ/アルトワークスにも搭載「660ccの俊作」

軽自動車の660ccエンジンで好印象なのは、昭和の時代に設計されたF6A型だ。が、21世紀のエンジンで魅力的だと感じるのは最新のアルトやハスラーに搭載されている「R06A型」3気筒DOHCである。
素性のいいエンジンでハイブリッド車やターボ車など、バリエーションも多い。軽快なパワーフィールで、アイドリングストップの作動も滑らか。特に刺激的なのはワークスとRSに積まれているターボエンジン。ビートの効いた加速を楽しめる。
4気筒DOHCエンジンは、スイフトなどが積んでいる“K”型系列が魅力的。軽やかに回り実用燃費もいい。
スポーツエンジンの秀作はスイフトスポーツが積む1371㏄の「K14C型」である。インタークーラー付きターボで優れたドライバビリティの持ち主。高回転の刺激と伸びは今一歩だが、気持ちいいターボパワーを満喫できる。【片岡英明】