これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、WiLLシリーズの第三弾となったコンパクトカー、WiLLサイファを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/トヨタ
■情報ネットワークサービス「G-BOOK」をトヨタ初搭載
独創的なコンセプトや技術を有することで、その後の自動車開発に影響を与えたクルマは数多存在する。
2002年10月にデビューしたトヨタのWiLLサイファもそうした1台で、同社のプリウスのように時代を変えるほど革命的ではなかったものの、情報ネットワークサービス「G-BOOK」を搭載したことによって、機能面における新機軸を打ち出したクルマとして歴史に記録されている。
キャッチコピーは「育てるクルマ」だ。これは内外装をユーザーの好みでカスタマイズするのではなく、情報端末「G-BOOK」を通して知りたい情報を入手することでクルマの機能を育てていくことを指している。
G-BOOKとは、トヨタがデンソーや富士通、アイシンAWなどと共同開発したテレマティクスサービスのことで、専用通信モジュールによってネットワークに接続し、インターネット経由でさまざまなサービスを利用できる機能だ。
それまでの通信ナビやカー情報サービスとは異なり、携帯電話の接続は不要で、月額550円からの定額制によって追加の通信費を負担することなく、最大144kbpsの高速通信による情報提供を利用できることをウリとしていた。
また当時としては大容量の256MBのSDメモリーカードに全国地図や車載端末の基本ソフトを装備し、コンビニなどに展開されているマルチメディア端末「E-TOWER」などから、最新地図への書き換えや市街図の追加、音楽やゲームのダウンロードも可能だった。
WiLLサイファの登場と同時にサービスが開始されたG-BOOKは、その後G-BOOK ALPHA、G-BOOK mXと進化を遂げ、トヨタはもちろん、ダイハツ、スバル、マツダといった他社製の車両にも採用されていた。
システムの老朽化にともなってサービスの維持管理が困難となったため、実は近年、2022年3月31日をもって終了したが、クルマに新たな基本性能を付与して「育てる」という画期的なアイディアと機能は、21世紀の新しいモビリティライフの楽しみ方を提案した。
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