2/自動車メーカーは全幅をどれくらい重要視しているのか?
5ナンバー枠の「1700ミリ」という数字は、あくまで目安でしかない。1705ミリになると、通れなくなる道があったり、側面衝突実験がNGとなる訳ではない。
1700ミリという数字にこだわるのは、5ナンバー車と3ナンバー車を、今よりも大衆車と高級車として隔てていた時代を知っているお客様に対して、敬意を払っているものだと考えられる。
「それならば1705ミリでも良いではないか?」というのはナンセンスだ。お客様へ心理的に安心感を与えるのも、自動車メーカーの仕事だからだ。
期待があればそれに答えるよう、設計エンジニア達は、自身の持つ目標を達成するために、全幅1700ミリのなかで全力を尽くす。
ひとつ事例がある。あるクルマにて、側面衝突性能の目標が高かったが、ドアの厚みを増やせずに目標達成の目途が立っていなかった。
考え抜き、シートフレームもバリアの一部として活用し、乗員傷害度を下げる新構造を編み出したエンジニアがいた。かえって「縛り」があったことで、「火事場の馬鹿力」的な大発見をすることもあるのだ。
3/コンパクトカーを除いて全幅1700ミリ以下の5ナンバーサイズにすることは難しいのか?
やればできる。そういうコンセプトのクルマが出れば、コンパクトカーでなくても全幅1700ミリのクルマの開発は当然可能だ。
とはいっても、フルモデルチェンジで、ボディサイズを縮小したクルマはあるのかといえば、ないというのが現実だ。
しかし、全幅の拡大が止まったクルマはある。例えば、日本専用の高級車として1955年に誕生したクラウンの全幅は、5ナンバー枠を使い切る1680ミリからスタートした。
2代目から5代目までは1690ミリと5ナンバーを維持していたが、1979年の6代目から全幅1715ミリの3ナンバー車両が設定された。
続いて1720→1745→175ミリと代ごとに拡大を続け、9代目から全車3ナンバーとなった。
10代目のロイヤルシリーズでボディ構造をペリメーターフレーム式からモノコックボディに一新した際に、全幅は1760ミリとなった。
11代目で1765ミリ、ゼロクラウンとして知られる12代目で1780ミリ、13代目で1795ミリと確実に増加。2012年発表の大型グリルを採用した14代目で最大の1800ミリに達したが、2018年に登場した現行クラウンで、全幅の拡大がパッタリと止まった
全幅1830~1850ミリの多い欧州セダンのなかにあって、日本専用のクラウンが1800ミリにとどまったのは、歴代モデルを乗り継ぐオーナーや需要の多い法人顧客からの声を反映したものだろう。そうした声を聞いてきたからこそ、現在の成功があるのだ。
4/全幅拡大のメリットとデメリット
全幅を広げることのメリットは、室内の居住性が良くなる、ドアパネルの厚みが増えて側面衝突安全性を確保しやすくなる、あわせて側面からのノイズが入りにくくなる、
車両のロールが減りコーナリング時に安定する、幅広のタイヤが装着できコーナリング限界が上がる、(トレッド拡大により)前輪の転舵角が大きくなって小回りが利く、そしてなによりデザインの自由度が増す、と、ざっと挙げてもこれだけある。
対するデメリットは、クルマが重たくなる、空気抵抗が増えて燃費が不利になる(前面投影面積が増えるため)、狭い道や駐車場でのクルマの取り回しがやりにくくなる、などだ。
もちろん、全幅の広げる度合いによるし、フェンダー部分を広げるのか、ドアパネルを広げるのかによっても、変わるので一概に当てはまる訳ではない。
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