■シミュレーターの限界を超えろ! 本物に近づくためには本物を使え!
それよりもこのマシンの凄さは搭載された実車パーツの多さにある。なぜそこまでリアルにこだわったのか?
今ならリアルに近づけるという点で「VR」という選択肢もある。ただスポーツドライビングのポジション自体がVRとの相性が実は良くないのだという。
加藤氏の分析ではVRはピントが真ん中で合うように設計されている。だが実車同様にアゴを引いて上目遣いの視点の時や、目だけを動かしてコーナー出口を見るようなシチュエーションではどうしてもズレが生じてしまうという。
4輪用ヘルメットを改造してVRゴーグルを埋め込んでみたりさんざん試してみたのだが、現状では3面モニターに軍配が上がる。VRはそれなりにリアル感はあるものの今後に期待といったところだろう。
Gを感じることができないバーチャルの世界で最も再現が難しいのはブレーキだと言われている。慣れていない人が走り始めてすぐにオーバースピードでコースアウトするのもそのためだ。
せめて「フィーリングを改善すればもっと走りやすくなるのでは?」と考えた加藤氏は、よりリアルなブレーキペダルタッチを実現するために、スプリングやゴムなど様々なマテリアルを試した。
たまたまアメリカ現地で通りがかったスケボーショップでは、ちょうど良さそうなゴムブッシュを見つけると全種類の硬さを買い占めてペダル反力の調整に使ったこともあるそうだ。
しかしいろいろ試した結果満足いくようなペダルタッチは実現できなかった。「だったら本物使えばいい」とブレンボキャリパーを使った油圧式のブレーキシステムを装着。
さらにクラッチも本物の油圧式に変更。その圧力センサーにはレーシングカーに使われるMOTECのロガーを使って細かなセットアップを行っている。
ここまで来れば走り出した列車はもう止まらない。ついには最新アップデートとしてNDロードスター用(しかもカップカー用の中古)の本物のトランスミッションまでコントローラーにドッキングさせた。
「カッチリとしたフィーリングは最高だし、全くシフトミスしなくなりましたね」と満足そう。
さすがは過去には本物のフォーミュラー・ニッポンのカーボンモノコックを買い付けてシミュレーターコックピットを制作したという武勇伝を持つ男だけある。
■シミュレーターが追求するのは速さだけではない! レースゲームとの本質の違い
ここまでリアルに作られたこだわりのレーシングシミュレーター、さぞかし速く走れるのだろうと思いきや、実は「操作も軽いペラペラのコントローラーの方が速く走れますよ(笑)」と何とも意外な言葉が……。
なるほど、ここにレーシングシミュレーターとレースゲームの本質の違いがあるのかと気が付いた。
実際のレースやドライビングを意識してプレイすることこそがレーシングシミュレーター、何よりもコンバットスコア(タイム)を狙ってプレイするのがレースゲームということか。
ただ、誤解しないで欲しいのは加藤氏のマシンでは速く走れないなどということは決してない。
リアルのロードスターパーティーレースでは何度もチャンピオンを取り、バーチャルではiRacingのロードスターカップ世界チャンピオンにも輝いた。
結局は乗る人次第ということになるが、走っているのは自分だけでなく、一緒にバトルをしているマシンの向こう側にも必ず他のプレイヤーがいる。
接触ギリギリの激しいバトルの中でも相手をリスペクトし走行ラインを残すなど、正々堂々と勝負をすることが大事(編注:iRacingでは他車やフェンスなどへの接触が致命的なダメージとなりタイムが出なくなる)。
究極のリアリティーを実現できたマシンだからこそ信頼して戦うことができたのは間違いない。レースが終われば勝ち負けは関係なくお互いのスポーツマンシップを称えあう。これぞeスポーツであり、レーシングシミュレーター本来の姿だろう。
加藤氏率いる「TC CORSE」は日本ではまだ珍しいリアルとバーチャル両方の活動を行っているeスポーツチーム。
現在チーム員は25名ほどで「iRacing」をメインのプレイヤーが多いらしいが興味のある読者はTCR JAPANに問い合わせてみてはいかがだろうか?
ちなみに中古でも本物のトランスミッションさえ準備できれば約15万円ほどでシフター化できるそう。そのフィーリングと言えば「百聞は一見に如かず」東京都町田市のお店で体験OKだそうだ。
取材協力:TCR JAPAN(リンク先)
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iRacingとは?/アメリカ生まれのレーシングシミュレーターで、収録されている車種はすべてレーシングマシンだ。
フォーミュラからGTカーはもちろんアメリカらしくNASCARやダートオーバルマシンまで網羅する。世界中の多くのサーキットが収められているが、すべて現地で詳細に計測したデータが使用され、ちょっとしたギャップやグリップの変化まで再現されている。
コミュニケーション機能も強力で、一緒に走った海外のレーサーと友達になれるのも大きな魅力だという。
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