eモータースポーツが盛り上がりを見せる中で、2020年7月に開催された「バーチャル・ル・マン24時間レース」には多くのトップドライバーが参戦。
F1レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンはレース中一度トップを快走し、シミュレーターの世界でも速さを証明した。
それでは逆に、純粋にシミュレーター(=SIM)の世界で速いSIMレーサーは、実際にサーキットでクルマを走らせるとどうなのか?
今回は2020年8月1~2日に筑波サーキットで開催されたマツダファン・エンデュランス(マツ耐)に参戦した菅原達也選手にスポットを当てて、この疑問に迫る!
文:森吉雄一/写真:Shin Saito
【画像ギャラリー】普段使いのマツダ車で参加できる! 筑波サーキットを舞台に世界的SIMレーサーが「マツ耐」を走る
■ゲームで速いやつは実車でも速い?「あるある」な疑問を検証するチャンス
「レースゲームで速いヤツは実車に乗っても速い?」
そういえば「格闘ゲームで強いヤツはケンカしても強い」とか「ゴルフゲームで上手い人は実際のゴルフでも上手い」なんて聞いたことがない。
レースゲームやシミュレーター出身の「SIMレーサー」という言葉を実際のレースの世界でも聞くことが増えた。バーチャルで培ったテクニックはリアルで本当に通用するのか? それを検証できるチャンスがやってきた。
グランツーリスモSPORTのトッププレイヤーの1人である菅原達也選手の実車デビューレースを耐久レースのチームメイトとして共に戦うことになったのである。
2020年、菅原達也選手はグランツーリスモSPORTのFIAGTCネイションズカップシドニー5位、JeGT Round Extra Vol.1 チーム戦優勝、Vol.2 個人戦優勝と大活躍中だ。
彼は実車でサーキット走行経験はあるもののレース参戦は初めて。世界レベルのグランツーリスモプレイヤーがどんな走りを見せてくれるのか興味津々である。
するといきなり予選から菅原選手はその非凡な才能を見せてくれた。
グランツーリスモをプレイする彼の走りを実際に見たことあるが、とにかくマシンに慣れるのが速い。コーナーごとに挙動を理解してそれに合わせて走り方をアジャストしていく。とにかく無駄がない。
実車でも同じようにいとも簡単にワンアタックのみの予選でもチーム内でほぼトップタイムをマーク。これには元プロドライバーである筆者も目が点である。
「ゲームなら1ラップだけのアタックでも走り込んだタイムの0.5秒落ちぐらいでそれなりに走れてしまいますけど、実車でワンアタックだと路面やタイヤのコンディションが一定ではないので常に全身のセンサーをビンビンにしておく必要がありますね」
と、もうすでにクルマの走らせ方やラインではなく最も重要な「タイヤ」に意識が集中していることに驚かされた。
■玄人的感想にも納得! 見た目は若者だがレースゲーム歴17年のベテランなのだ
「ゲームと一番違う部分はやっぱり「タイヤ」。同じタイヤでも(路面)温度によってヨレ方も違ってくるし、同じ時間帯でも1周目と2周目で変わってくる。走り始めて全然まだクルマに慣れてない状況の方がタイヤのコンディションが良くて意外とタイム良かったり……」。
コメントが昨日今日サーキットを走る人間とは違う。そういえばそうだ。見た目こそ23歳の若者だが、彼は6歳の頃からレースゲームを始めてもう17年、今や世界のステージで戦うベテランドライバーなのだ。
走りのアドバイザーがいるわけでもなく1人で「速さ」を追求してきた。その「速さ」に対してのモノサシが正確で「どこでどうすればより速く走れる」という自分の中の明確な基準を持っているのだろう。それはゲームも実車もほとんど同じだという。
ただ、ゲーム内はほぼクラッチも使わないパドルシフト。ヒールアンドトゥやマニュアルシフトの操作はまだまだ練習が必要だ。
レーシングドライバーの中には3歳からレーシングカートを始めて……なんてよく聞くが、カートや装備だけでなくサーキット走行料や消耗品にメンテナンスなど、やはり膨大なお金がかかるのは事実。カートの運搬もあるし1人では練習することすらできない。
逆にレースゲームの場合はゲーム機本体とソフトやコントローラーなどの機材さえあれば時間の許す限り練習やレースにも参加できる。今では国体や世界選手権にだって自宅から予選に挑戦できるのだ。誰にだってチャンスがあるし、私のように50歳を過ぎたプレイヤーでも国体選手になれる可能性だってある。
実は今回、グランツーリスモSPORTで知り合った仲間とゲーム内で練習してリアルの耐久レース(マツ耐)に出てみませんか?というお誘いがあった。なかなかに夢のある話だし、eモータースポーツネタを担当する筆者にとっては面白い。
コメント
コメントの使い方