■強さを秘めてサーキットに戻ってきた野尻
具体的に何をどうしたのか詳しくは語らなかったが、野尻がかつてない強さを秘めてサーキットに戻ってきたことは、そのスマートでブレのない走りにも現れていた。
スタートこそわずかに出遅れ予選2番手の大湯に先行を許したが、野尻は慌てず騒がず背後から大湯の走りを観察。
10周目に大湯の隙をついてトップを奪還すると、雨が落ちてきた中盤以降も盤石の走りでレースを牽引。チェッカーの3周前までタイヤ交換を遅らせることで十分なマージンを築き、野尻は今季初勝利のゴールを切った。
「この週末は走り出しから手応えがあった。予選からマシンのポテンシャルを出し切れたのも、いつ雨が降り出すかわからない決勝で落ち着いて走れたのも、素晴らしいパッケージを用意してくれたチームとホンダのおかげ。僕は最後まで集中力を切らさず走りきっただけで、本当に素晴らしいクルマだった」。
野尻は今季初勝利についてそう振り返ったが、どんなにマシンが素晴らしくてもドライバーの力量なしに勝てるレースなどありはしない。逆にドライバーの技量がどれだけ高くても、マシンパッケージに不足があると上位を争うことは難しい。
■季節によって「旬」があるエンジンの不思議
今回のレース、予選、決勝とも上位にホンダエンジン勢が並び、対するトヨタ勢というと上位フィニッシュは4位の平川亮(27、carenex TEAM IMPUL)のみ。ホンダ勢の7台中5台がトップ6に入ったのに、11台のトヨタ勢のほとんどが後ろに固まっているリザルト表をみて首をかしげたファンも多かろう。
実はこの傾向、いまに始まった話でもなければシーズンを通して同じというわけでもない。
春先や秋口以降、気温が比較的低めで爽やかな時期はホンダエンジンが快調で、逆にうだるような暑さで人間も息絶え絶えの時期になるとトヨタエンジンが元気ハツラツになる、という状況が昨年から続いている。
その理由を両メーカー関係者に訊ねると『エンジンの構造や成り立ちが違うから』という答えで共通している。快調なほうがズルをしているという『陰謀説』もたまに聞こえてくるが、それはまったくの都市伝説、でなければ苦しい時の八つ当たりが噂の出処だろう。
ともあれ、暑さ寒さで状況が逆転する状況は公平といえば公平であるが、せっかく両陣営から世界基準のドライバーたちが参戦しているのだ。コース上での両陣営ドライバー同士の丁々発止のバトルが少ないどころかほとんど見られないなんて、もったいなくないか?
「正直、今回のホンダ勢との差はひどかった。直線でついていけない、抜けない、オーバーテイクボタンの使用時間が去年の2倍になったけれど、今回はむこうだけ有利になっていたような気がする」、と重い口を開いたのは平川だ。
「(エンジン開発凍結)規則があるので現状のまま戦うしかないけれど、SFがドライバーとチームのレースというのなら、ここまでエンジンで差が出るというのは、走る側もしんどいし、見ている人もよくわからないのではないかと。なんかちょっと残念で、どうなのかなぁと思います」。
■スーパーフォーミュラはもっとアピールを!
プロのレーサーが素人には絶対真似のできない技を駆使し、コンマ1秒を削りながら時速200キロ超の争いを展開しても、観る側にはそのスゴさがいまひとつ伝わっていないのが、いまのSFの現実だ。
この現実を打破するために、例えば馬力調整のためのエンジンリストリクター(空気取り入れ口)の径をそれぞれ冬用・夏用で取り替えるとか、メーカー別に燃料流量を季節ごとに設定するとか、両エンジンの『性能調整』のためのアイデアが浮かぶ。
けれど、誰が、どうやって?と突っ込まれると、筆者も口をつぐんでしまう。
いずれにせよ、シーズンを通したタイトル争いも必要だが、レース中の両陣営入り乱れてのバトルもSFというレースのスゴさを表すためには必要。関係者各位にはさらなる知恵と実行力でSFの面白さを追求し、ひろく世間にアピールする努力を続けていただきたい。
コメント
コメントの使い方