■水素をベースとした「e-Fuel」が持つ可能性
ただし、水素を燃やす内燃機関が将来ポピュラーな存在になるかといえば、ぼくの個人的な意見としてはNOだ。
前述のとおり、水素燃焼エンジンには早期着火と水素の搭載性という二つの技術的課題がある。すでに実用段階に入ったMIRAIが存在するだけに、あえて内燃機関で水素を燃やす意味は希薄。FCは純度の高い水素を要求するという問題はあるが、ピュアな水素を使うなら燃料電池に使う方が賢い。
それよりも、どうせ水素を大量生産するなら、CO2と反応させて炭化水素を造り、ガソリンを代替する合成液体燃料として利用すべきだろう。
この合成液体燃料は通称“e-Fuel”と呼ばれるものだが、フィッシャー・トロプシュ法という触媒反応を経たあと石油精製プラントで処理することでガソリンや軽油が取り出せる。
ベースとなる水素は電気分解によって生成する構想だから再生可能エネルギーや原子力の利用が必須だが(そうでないとカーボンニュートラルにならない)、やり方次第では内燃機関とカーボンニュートラルを両立させることも可能というわけだ。
この“e-Fuel”ならば、いま走っているガソリン車が無改造でそのまま利用できる。もちろん、“e-Fuel”を製造するには余計なエネルギーとコストがかかっているが(資源エネルギー庁の試算によるとガソリンでリッター700円)、モータースポーツで使用するなら量的にもコスト的にも許容範囲。
FIAは2030年からF1の燃料をカーボンニュートラル 化すると表明しているようだが、日本勢はF1に先んじてモータースポーツのe-Fuel化を推進すべきだと思う。
■マツダはバイオディーゼルエンジンを進める
内燃機関でカーボンニュートラルを実現するというテーマでは、マツダが挑戦するバイオディーゼルレーシングカーも大きな可能性を秘めている。バイオ燃料は“e-Fuel”よりはるかに長い歴史と実績があって、アメリカはトウモロコシ由来、ブラジルはサトウキビ由来、インドネシアではパーム油からバイオエタノールが造られている。
マツダが挑戦するのは、従来のバイオ燃料とは異なる藻類由来の軽油。ミドリムシで有名なユーグレナ社は、藻類由来のディーゼル燃料やジェット燃料の開発に取り組んでいるが、その成果として生まれた100%バイオ燃料「サステオ」で、マツダ2ベースのディーゼルレーシングマシンを走らせるという。
ちなみに、アメリカのバイオエタノール生産量は2018年の時点で日本のガソリン消費量を上回る6千万キロリットル以上。2位のブラジルがその約半分。われわれ日本人が想像するよりはるかに大規模に利用されている。
ただし、植物由来のバイオ燃料は原料栽培に大面積の土地が必要なのが欠点だったわけだが、藻類由来のバイオ燃料は単位面積当たりの生産効率やCO2吸収効率が高いことが魅力で、マツダもそこを評価したものと思われる。
こういう新しい技術に光が当たってくるのは、全固体電池の開発が進むのと同じくらい、CO2削減にとって素晴らしいこと。いたずらに内燃機関を廃止しろと叫ぶのではなく、賢く、誰も取り残さず、カーボンニュートラルという目標を実現したいですね。
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