目が見えない、視覚障がいを抱えた人がバイクに乗る。にわかには信じがたいことだが、体験会は実際に行われている。体験会を主催しているのは「一般社団法人サイドスタンドプロジェクト(SSP)」。2輪のロードレースファンにはおなじみの青木3兄弟の2人がSSPを立ち上げ、「パラモトライダー体験会」を頻繁に行っているのだ。自分の目で奇跡を確認するべく、神奈川県内で行われた同イベントを取材した。
文、写真/青山義明
【画像ギャラリー】これが奇跡の瞬間だ! 視覚障がい者が250ccのバイクに乗った体験会の様子(9枚)画像ギャラリー青木琢磨さんが鈴鹿を走ったのがきっかけとなりプロジェクトが動き出す
青木3兄弟とは、オートバイレーサーの青木宣篤さん、拓磨さん、治親さんの3人を指す。兄弟そろって世界ロードレース選手権に参戦し、活躍したことで知られているが、次男の拓磨さんは1998年シーズンの開幕直前のテスト中の事故によって脊髄を損傷。現在も車いす生活を余儀なくされている。事故後は4輪のレーシングドライバーに転向。様々なフィールドで活躍しているのでご存じの方も多いだろう。
拓磨さんに再びバイクに乗ってもらおうということで始まったのが「Takuma Ride Again」。2019年の鈴鹿8耐のセレモニーでは、拓磨さんが自らのライディングでコースを周回し、大きな反響を呼んだが、この企画を発展させる形で始まったのがパラモトライダー体験会。長男・宣篤さんと三男・治親さんのふたりが、障がいを負い、バイクを諦めた人に再びバイクを楽しんでもらおうと2020年から開催している。
下肢障がい者を中心に体験走行会を実施
パラモトライダー体験会では、バイクに乗る際に必要となるライディングギアについては、SSPが必要な装備一式を用意。さらにSSP専属の理学療法士が参加者の問診を行ない、参加の可否を判断している。参加者の抱える障がいはそれぞれだが、この体験会ではこれまで主に脊椎損傷や下肢切断といった下肢障がいを持つ参加者を受け入れてきた。
SSPが持ち込むバイクにはハンドシステムを搭載。左手側のシフトスイッチで変速するので、下肢での操作は必要ない。下肢はベルトで押さえ、ブーツとステップをビンディングで固定する。また、バイクが安定しない停車時や走行開始時は数多くのボランティアスタッフが支える。つまり究極のアナログ対応である。
回数を重ねていくうちに、世間からの注目がアップ。ネットや人づてに次々と新たな参加者が集まる中で、視覚障がい者からの問い合わせがあった。SSPとして「どうしたら安全にバイクに乗ってもらえるか?」をスタッフ内で議論し検討を重ねた結果、受け入れを決めた。
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