■快適性は競合ミニバンに勝るのか?
インパネの周辺を見まわすと、柔らかいパッドの使用箇所が限られてアルファードほど上質ではないが、商用車の面影は払拭されている。
運転姿勢は通常のミニバンで、ワンボックスボディのハイエースに比べると自然な印象だ。ボンネットがあるために、心理的な安心感も伴う。運転席のサイズにも余裕があって快適だ。
グランエースには、前述のように3列シートと4列シートがあり、モーターショーに展示されていた車両は3列シートの6人乗りであった。2/3列目には、両側に固定式アームレストを備えた豪華なセパレートタイプのキャプテンシートが装着されている。
リクライニングと足を支えるオットマンの調節が電動式で、アルファードのエグゼクティブパワーシートに近い。このシートが4名分収められた車内は壮観だ。
実際に2/3列目のシートに座ると、かなり心地いい。一般的にミニバンの3列目は、アルファードも含めて、床と座面の間隔が不足するなど、快適性が2列目に比べて大幅に劣る。
その点でグランエースの3列目は、座り心地が2列目と同じだ。ほかのミニバンの3列目と違って折り畳むことはできず、自転車のような大きな荷物を積む時には不便だが、居住性は抜群に優れている。
室内高が前述のように1290mmにとどまるため、グランエースの頭上空間はアルファードに比べて狭いが、むしろ高級セダンの後席に座るような落ち着きを感じた。
グランエースには4列シートの8人乗りもある。1/2列目の造りは6人乗りと同じだが、3列目はシートの角度調節などがマニュアル式になる。
最後部の4列目には、チップアップ方式を採用。座面を持ち上げて前方にスライドさせ、荷室を拡大できる。アルファードなどの3列目に採用される左右跳ね上げ式に比べると、荷室の奥行寸法を確保する上では不利だが、座り心地を損ないにくく着座姿勢も最適化させやすい。
アルファードの前身となったグランビア、ホンダ エリシオンなどは、3列目をチップアップ方式にして快適な座り心地と荷室の拡大機能を両立させていた。
ただし3列シート仕様と4列仕様は同じボディを使うから、後者は8名乗車を可能とする代わりに足元空間が狭い。グランエースの価値は、ミニバンに見られる2/3列目の居住性格差を是正して、全員が快適に移動できることだから、本命は3列シート仕様だ。
■商用車ベースで気になる走りはどうか?
走りのメカニズムにも触れておこう。グランエースはボディが大柄で商用車をベース開発されたこともあり、車両重量が2750~2800kgに達する。アルファードハイブリッドの最上級グレードでも2240kgだから、グランエースは相当に重い。
そこでエンジンは直列4気筒2.7Lクリーンディーゼルターボを搭載する。ランドクルーザープラドが採用している1GD-FTV型に改良を加えたタイプだ。
最高出力は176ps/3400rpm、最大トルクは45.9kgm/1600~2400rpmとされ、ほかのディーゼルと比べても1500rpm以下におけるトルクの落ち込みが小さい。重量級ボディに適したエンジンで、トランスミッションは6速ATを組み合わせる。
ボディはモノコック構造だが、商用車とあって耐久性を高めた。サスペンションは前輪がストラットの独立式、後輪はトレーリング4リンクの車軸式だ。カーブを曲がったり車線を変える時に、後輪側の荷重が増えることもあり、リヤサスペンションには減衰力を変化させる機能も採用した。
タイヤサイズは17インチ(235/60R17)で、展示車の銘柄はブリヂストン・デュラビスであった。指定空気圧は前輪が300kPa、後輪は350kPaに達する。車両重量/タイヤサイズ/空気圧のバランスは、商用車のセッティングだ。
リヤサスペンションが車軸式だから、乗り心地が粗くなりそうだが、開発者によると「商用車でボディ剛性がきわめて高く、サスペンションも専用にチューニングしたから、乗り心地は予想以上に快適」だという。
グランエースの主な用途は、開発者によると「ホテルの送迎とかハイヤーなど」だが、販売店に尋ねると「扱った経験のないクルマで、まったく予想できない」という。
従来は4名のVIP、あるいはドライバーを含めて6名を快適に移動させるには、2台のクラウンを必要とした。アルファードなら乗車人数的には1台で済むが、3列目の居住性が2列目に比べて大幅に下がってしまう。
ハイエースグランドキャビンもあるが、10人乗りだから逆にムダが生じる。クルマの雰囲気もマイクロバス的だ。
そこがグランエースの3列仕様なら、4名のVIPが一緒に乗車できて、車内は1列目も含めてとても快適だ。つまりグランエースの機能的なメリットは、乗員の高い満足感と、多人数乗車による高効率の両立となる。このような機能を備えたクルマは、今まで日本車には存在しなかった。
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