10月15日、幕張メッセで開催中のジャパンモビリティショー Bizweek 2026のトークステージで、「東京モビリティ会議2026 with ベストカー」が行われた。登壇したのは、日本自動車工業会(自工会)の佐藤恒治会長と、大学生・大学院生・整備専門学校生・音大院生という20代の5人(+司会はベストカー編集局長)。テーマは「クルマとモビリティの未来は、若者に選ばれるか」。免許の費用から整備士不足、内燃機関の行方、そして若者が自動車産業を選ばない理由まで、予定調和なしの60分となった。
文:ベストカー編集局長T、画像:ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】「欲しくない」より「選べない」「触れられない」――自工会・佐藤会長と20代5人が語り合った、クルマの未来【JMS Bizweek 2026】(3枚)画像ギャラリー初めての愛車を壊した日、ディーラーの一言が教えてくれたこと
トークセッションは、登壇者たちの「最も感動したクルマ体験」から始まった。佐藤会長が挙げたのは、学生時代に初めて買ったホンダ・シビック。運転に不慣れなうちにぶつけてしまい、落ち込んで販売店に持ち込んだところ、サービスエンジニアが「直せばいいんだよ。どんどん乗って、壊れたら直すから」と励ましてくれたという。「すごく感動した。だから整備はすごく大事だと思う」。この話は、のちの整備士の議論につながっていく。
学生側の答えもさまざまだ。レンタカーで乗ったスープラの応答性に「人馬一体」を感じたという出川さん、赤ちゃんの頃にドリフトドライバーである父親の助手席に乗せられた原体験を語る上野さん、夏休みに愛車で東北を一周し、気づけば本州最北端の青森まで行けてしまったと話す加藤さん。「クルマはさまざまな景色を見せてくれる」という加藤さんの言葉は、クルマが移動手段である本質を突いていた。
免許に30万円、それならヨーロッパへ――「欲しくない」のではなく「選べない」
続けて語られた今日の「第一の問い」は、クルマは若者にとって「欲しくない」のか、「欲しくても選べない」のか。会場に挙手を求めると、「愛車を持っている」は多数、「欲しいけれど持てない」はちらほら、「欲しくない」はゼロ。モビリティショーの会場らしい結果ではある。

東京音大の大学院に通う高橋百佳さんは、普段クルマと縁のない側の代表として率直に語った。都内近郊では日常で使う機会が少なく、出かけるならレンタカーで足りる。免許取得にも30万円ほどかかり、「それならヨーロッパに行こう」となってしまう。さらに「免許返納キャンペーンはあるのに、免許を取ろうというキャンペーンはあまりない」と指摘した。加藤さんも、大学の同級生(非自動車部員)にクルマを持っていると話すと「お金がかかって大変そう」と返されるのが定番だと明かす。マジかー。そうだよなあ……。
佐藤会長は、「若者の消費は、全体が減っているのではなく、使い道が変わっている」と分析する。統計を見ると、20代、30代の消費自体は伸びており、増えているのは「食」と「推し活」。免許取得費、保険、維持費といった所有前のハードルが、いまの若者のお金の使い方と釣り合わなくなっているのではないか、という見立てだ。一方で会長は、メーカーの経験則として「若返りを狙って開発したクルマは高齢の方に受け、女性向けに作ったクルマは男性に受ける。特殊性を狙いすぎるのは逆効果」とも語った。
盛り上がったのは、「クルマを持っていてモテるか」、という脱線だった。会長&司会の世代は「学校にソアラへ乗って行けば、カースト最上位」だったが、いまは「クルマの話題すら出ない」、「そもそもクルマを持っているかどうか聞く機会がない」と。ひええ……。
それでも上野さんは、自動車部の仲間という「男子にはモテます」、「人と人がクルマで繋がれる」という魅力を語り、「欲しくないわけではない」という空気が会場に残った。
内燃機関はなくならない? 自動運転は「対話するスポーツカー」へ
「第二の問い」は、「便利になっても失ってはいけないもの」。早稲田大学大学院でディーゼルエンジンを研究する遠藤佑馬さんは、地域ごとの発電構成やインフラに応じ、EV、ハイブリッド、カーボンニュートラル燃料の内燃機関を使い分けるべきだと述べた。地方出身者(愛知県豊田市)として、航続距離や充電時間の面から「(エネルギーの多様化は進むが、多様だからこそ)内燃機関は今後もなくなることはないと思います」という。
かつてエンジンの研究に携わった(エンジニア出身の)佐藤会長は、「(佐藤会長の入社直後の時代である)約30年前から内燃機関の限界論はあったが、(内燃機関は)いまもなくなっていない」と振り返る。「電動化は必須」としたうえで、日本は燃焼と排気の技術で世界でも優れた蓄積を持ち、欧州の規制が強まった局面でも研究開発をやめなかったと強調。
「地道な研究が未来の選択肢を増やす」と語った。会長はこの日の会場で、ダイハツが軽自動車用のアンモニアを燃やすエンジンを出展していたことにも触れ、「一番びっくりした展示。まだ新しいことをやっていると嬉しくなった」と述べた。
自動運転を学ぶ出川貴久さん(日産栃木自動車大学校)は、自動運転が進むほどスポーツカーの定義が変わると語る。馬力ではなく、手ではなく言葉や考えで意図が伝わる、クルマとの「対話」こそが新しいスポーツカーになるという発想だ。これを受けて会長は、自動車は人間の能力の拡張であり、自動運転は移動の自由という本質的価値を高めるためのものだと整理した。「自動運転が目的ではなく、なぜ普及させるのかが大事」という言葉が印象的だった。
整備士不足は「エコシステム」の危機
整備士の学校に通う出川さんは、「ソフトとハードの両方を扱える人材が今後重要になるはずです」と話し、自工会に整備士の育成や魅力発信への取り組みを求めた。
佐藤会長は、自工会でも「まさにいま、整備士の環境づくりが重要テーマとして議論されている」と明かす。クルマはお客さんの手に渡ってから使う時間のほうが長く、その安全・安心を販売店やサービスエンジニアが支えている。その担い手が減れば、サービスを提供できなくなるリスクがあるという認識だ。
「メカニカルだけの時代ではない。ソフトとハードの両方を扱える、チャレンジングな領域です」
司会が「たしかに、たとえば(整備士不足で)車検が3か月待ちでは困る」と合いの手を入れると、会長は車検や保守点検が保たれているからこそ安全な交通社会があるのだと応じた。出川さんの「もっと整備士の育成や環境改善につながる活動を」という注文に、「頑張ります。その代わりアドバイザーをやってほしい」と返す場面もあった。実現したらぜひ取材させてほしい。
クルマ好きなのに、自動車産業を選ばない理由
「第三の問い」は「モビリティ産業が、若者が働きたい産業になるには」。
高橋さんが会長に「なぜ自動車産業を選んだのか」と尋ねると、佐藤会長は自身が『サーキットの狼』で育ったスーパーカー世代で、実家にクルマがなかったぶん憧れが強まったと語った。
「どうせ仕事が大変なら、好きなことをやったほうがいい」という答えは、飾り気がなく説得力があった。
一方、慶應義塾大学体育会自動車部の上野さんは、クルマ好きの先輩や後輩でも、銀行や保険に進む例が多いと明かす。背景には、自動車というジャンルに対して世の中から環境や安全に関する風当たりが強いなかで、(巨大メーカーの中に就職して)「自分の思うクルマが作れるのか」という不安があるという。
豊田市出身の遠藤さんには新鮮な指摘で、佐藤会長は「そうかあ…」と応じつつ、「やりたいことは、望めばできますよ、自分で決めればいいじゃないですか、と思ってしまった」と率直に反応した。そのうえで、モビリティ産業はいま、百年に一度の変革期にある、未来は誰にもわからず、先にいる人が答えを知っているわけでもない。若手もベテランも同じ立ち位置で未来を考える環境になっていて、すごくスリリングな状況、その面白さが伝わっていないのではないか、と述べた。
ジャパンモビリティショーへの「宿題」
最後に議論されたのは、モビリティショー自体の進化である。高橋さんは「クルマにそれほど興味がない人でも興味を持ってもらえるような、楽しませるような、そういったキッカケが作れるような仕掛けがないのではないか、と指摘。「会場に音楽が流れていない」と述べ、ステージでのライブやテーマソングなど、アーティスト目当てでも足を運べる仕掛けを提案した。
加藤さんは、道路事業者など自動車と直接関係のない企業の出展がもっとあってよいと述べ、1台のクルマが走ることの裏にある多様な技術や企業の協力が見えてくると語った。
佐藤会長は、今回のBizweek2026は隔年開催のうち、技術の種を育てるBtoB色の強い年だと位置づけつつ、そのうえで、それでも関心層以外に届ける努力が足りないと認めた。業界内でしか通じない言葉で話していては何を目指しているのか伝わらないとして、たとえば今回の展示も絵で未来を伝える工夫をしたと説明。来年(2027年)はまた「表年開催」としてジャパンモビリティショーを大々的に開催し、100万人ほどの来場者を見込むそう。関心のない層へのリーチは「いい宿題をもらった」と受け止めた。




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