マツダが魂で切り開くガソリンエンジン戦略の勝算とはなにか? 

マツダが魂で切り開くガソリンエンジン戦略の勝算とはなにか? 

「現行のディーゼルエンジン(=SKYACTIV-D)と同等以上の燃費を実現。現行のSKYACTIVE-Gに対して全域で10%以上、最大30%のトルク向上を実現」。8月8日、マツダが兼ねてから噂されていた“究極のエンジン”、SKYACTIV-Xの2019年導入を正式に発表した。

「これからはEV。内燃機関はもう古い」。そうした風潮が増すなかSKYACTIV-Xは、エンジンの新たな可能性を拓く、ブレークスルーとなり得るのか!?

文:鈴木直也/写真:MAZDA、shutterstock.com


EVシフトのなかマツダが『エンジン革命』に挑むワケ

2040年をメドに脱内燃機関を目指す! フランスとイギリスが勇ましくもそんな政策目標を掲げて以来、世界的にちょっとしたEVバブルの様相を呈している。

これに叛旗(はんき)を翻すかのように、内燃機関の効率アップこそが重要! そう声を上げたのがマツダのSKYACTIV-X(スカイアクティブ-エックス)だ。世間がEVバブルに踊っているとき、それはまるで風車に挑むドンキホーテのごとしだが、マツダには大いに勝算あっての“逆張り”と見たほうがいい。

まず、究極的にはEVが内燃機関に取って代わるにしても、5年や10年というスパンではあり得ない。

テスラがいくらきらびやかな話題を提供しても、現状EVは補助金なしではビジネスが成り立たない。まだまだ、内燃機関とイーブンな競争条件で戦っているわけじゃないのだ。

マツダが予測するパワーユニットの勢力図。長期的にみればEVのシェアは増えていくが、約20年後でもエンジンを使ったパワーユニットは大きなシェアを持つ。エンジンが急激にEVに取って代わられるわけではないのだ

さらに、仮に年間何百万台ものEVが売れる普及期に入ったとしても、今度は数が増えたことによってさまざまな問題が生じてくる。

電池の価格/性能比は目論見どおり向上するのか? 充電インフラもそうだが、そもそも発電所のキャパは足りるのか? 揮発油税に相当する税負担はどうするのか? 中古車市場は円滑に回るのか? 石炭火力で発電していて本当にCO2や大気汚染が減るのか?

そして、ここが意外に重要なポイントなのだが、EVメーカーはきちんと利益が挙げられるのか? こうした懸念を克服してはじめて、EVは内燃機関の正当な後継者たり得る。

日本では天然ガス火力が約4割、石炭火力約3割で概ね7割を火力発電に依存している(2015年:経済産業省データ)。EVが増えれば当然、そのぶん電力が必要で、その電力の多くはCO2を排出する火力発電で賄われることになる

世界初の『圧縮着火』は燃費にも走りにも効果絶大!!

マツダのスローガンは、おなじみ“ZOOM-ZOOM”だが、2007年3月からはアタマに“サステイナブル”がつく。

つまり、持続可能なズームズームだが、それを実現するには内燃機関の効率を極限まで高めることが必須。そんな地味で困難な技術開発を、マツダは10年前からシコシコと続けているわけだ。

新しいSKYACTIV-Xの“目玉”は、ガソリンエンジンながらディーゼルと同様の“圧縮着火”を、世界で初めて実用化したことだが、これについて技術的に掘り下げてゆくと、あまりに専門的になりすぎるし、いくらスペースがあっても足りない。

だから、ポイントは以下の3点。

圧縮着火は燃焼時間が短い。圧縮着火はリーンバーン(通常のエンジンより燃料の薄い空燃費で燃焼させる希薄燃焼)と相性がいい。制御が難しい圧縮着火を、スパークプラグを制御因子として活用することでコントローラブルにした。

ゆえに、燃費がよくて走りもいいと、理解すればOKだ(トルクの向上は“エア供給機”と称する一種のスーパーチャージャーを装備するおかげ)。

縦軸はCO2排出量の少なさ、横軸は3秒間に何メートル進むかにより『出足の良さ』を示したグラフ。SKYACTIV-Xは、2Lエンジンのロードスターと同等の加速力を持ち、デミオディーゼル同様の燃費を実現するとマツダは謳っている

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