日本は長期のデフレ状態で消費者物価指数はバブル崩壊以後ほとんど変わっていない。総務省のデータを見ると、1997年6月を100とした場合、この20年くらいは95〜102くらいの幅で動いてるだけ。
まぁ、庶民にとっては物価が上がらないのは有難いことだけど、そのぶん給料も上がらないから閉塞感がつのってしまうわけだ。そんなデフレ日本なのに、気になるのは「でも、クルマだけは値上がりしてるんじゃない?」ということ。
庶民感覚からすると「できればコミコミ200万までなんとか…」と言いたいところだけど、そうなるとクルマ好きの心をときめかせる選択肢はかなり狭まってしまう。
でも、ムカシはもっとクルマは安かったんだよ! それではなぜ、クルマは高くなったのか? そして、現代における安くて楽しい車の可能性にも触れながら、背景にある事情をみていきたい。
文:鈴木直也、写真:ホンダ
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かつてはシビックタイプRも199万円! なぜクルマは高くなったのか
以下は年寄りの繰り言と聞き流してもらってかまわないけど、ロードスターだって2代目(NB)までは200万円以下で買えたし、初代シビックタイプR(EK9)は199万円で185ps/8200rpmの芸術的カリカリNAエンジンが手に入った。
もっといえば、2代目あたりまではエボもインプSTIも300万円でオツリがくるグレードがあったのだ。
こういう事実を思い出すと、当時のクルマ好きの若者(今は50過ぎのオッサン)はホント恵まれていたとしか言いようがない。給料が変わらず、好きなクルマの価格が2倍になっちゃったのでは夢も希望もないよねぇ。
では、何故デフレ日本でクルマの価格だけがじりじり上がっていったのかといえば、それはいうまでもなく安全と環境の規制が厳しくなったからだ。
交通事故死亡者数の異常に多いアメリカでは、NHTSA(※1)によって1980年代からクルマの衝突安全性能の評価が行われていたが、90年代半ばに欧州や日本でもNCAP(※2)として定着。安全性能を星の数で評価して公表することが一般化する。
それまで、多くの自動車メーカーは「安全は商売にならない」と考えていたフシがあったが、一般消費者向けのわかりやすい指標が出てくると状況は一変。星5つを目指して全メーカーが衝突安全性能の強化に力を入れるようになったのだ。
※1 業界人はニッツァと読む。米国運輸省道路交通安全局 National Highway Traffic Safety Administrationの略称
※2 新車アセスメントプログラム New Car Assessment Programmeの略称
これが、クルマの価格を押し上げる圧力としていちばん大きな要素だったと思う。ボディ骨格の強化、サイドエアバッグやカーテンエアバッグなど追加装備、最近ではカメラやレーダーなどのADAS関連デバイス etc…。
さらに、安全性能向上はデバイスだけの問題ではなく、新しい制御プログラムや衝突テストなどに膨大な研究開発費もかかってくる。
たとえば、スバルのアイサイトがブレイクしたきっかけを例に考えてみよう。アイサイトが大評判になったのは、2010年のレガシィでオプション価格を10万円に抑えてから。
いまや当たり前となった衝突被害軽減ブレーキも、当時は車両価格を3〜4%押し上げる高価な装備だったわけだ。同じことが、安全性向上のために追加されたデバイスひとつひとつで起きている。
部品原価は正確にはわからないが、安全性向上のためのコストは最近のクルマでざっくり車両価格の10〜20%ほどに達しているのではないか。ぼくはそう思ってます。
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