毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はホンダ インスパイア(1989-2012)をご紹介します。
文/伊達軍曹 写真/HONDA
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■1980年代末期 ホンダから現れた個性派4ドアハードトップ
初代は、1980年代末期の「ハイソカーブーム」に対するホンダからのアンサーとして誕生した「FFミッドシップ+縦置き5気筒」という個性派4ドアハードトップ。
その凝ったメカニズムと流麗なフォルムにより、まずまずの人気を博した初代だったが、ぐっと北米ユーザー目線の作りに変わった2代目以降は日本国内での存在感を消失し、2012年に生産終了となったアッパーミドルセダン。
それが、ホンダ インスパイアです。
フラッグシップである「レジェンド」と、ミドルクラスである「アコード」の間にラインナップ上の空白があった当時のホンダは、1980年代後半に猛威を奮ったハイソカー、つまりトヨタ マークII 3兄弟に対抗できるニューモデルを市場に投入する必要がありました。
そのために開発されたのが、1989年10月に発売となった初代ホンダ アコード インスパイアです。
車名からわかるとおり、そのベースとなったのはホンダ アコード(4代目/CB型)でしたが、初代アコード インスパイアは「アコードのボディとエンブレムを変えただけの車」ではありませんでした。
搭載エンジンは新開発の2Lまたは2.5L直列5気筒SOHC20バルブで、これをフロントの車軸より後ろ側に、つまり「フロントミッドシップ」で縦置き。さらにはエンジン本体を右に35度傾けることで低重心化も図られました。
そして駆動方式は、仮想敵であるマークII 3兄弟はFRレイアウトでしたが、アコード インスパイアはあえてFFを選択。
ホンダは、長い時間をかけて積み上げてきたフロントエンジン・フロントドライブの技術に相当の自信を持っていたのでしょう。
そしてホイールベースは当時のトヨタ センチュリー並みの2805mmまで延長し、そこに伸びやかなフォルムの4ドアハードトップボディを載せました。
このような形でデビューしたアコード インスパイアは発売後、まずまずの人気を博しました。
そして1992年1月には全長を140mm、全幅を80mm拡大して3ナンバーサイズとした、「アコード」のサブネームが付かない「ホンダ インスパイア」を追加して、こちらもなかなかの人気に。
しかし1995年2月のフルモデルチェンジで登場した2代目のホンダ インスパイアは、ボディサイズは初代の3ナンバー仕様とさほど変わらないものの、アメリカ市場の要望に応える形で「粋(いき)よりも居住性を重視したセダン」に変わってしまいました。
1998年10月に誕生した3代目は、2代目と比べればパーソナル感が強めの車に戻りはしましたが、特徴もなかったからでしょうか、人気薄セダンとしてその生涯を送ることになります。
そして2003年6月に登場した4代目は、また再び「北米ユーザー目線の高級セダン」へと回帰し、日本市場ではエッジ(優位性)を見せられないまま2007年、販売終了に。
さらに、2007年12月に発売となった5代目のインスパイアは、申し訳ないのですがホンダ党以外のユーザーからはほぼ存在すら認識されないまま、人気薄高級セダンとしてモデルライフを過ごし、2012年10月に販売を終了。
中国市場ではその後2018年に「インスパイア」という車名が復活することになりますが、とにかく2012年10月の時点で、ホンダ インスパイアの歴史はいったん終わることとなりました。
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