クルマは趣味趣向が色濃く反映されるので、流行り廃りを繰り返す。最近目につくクルマ界のMODE(流行)について清水草一氏との掛け合いによって、あーでもない、こーでもないと評していく。
※本稿は2021年9月のものです
文/清水草一 写真/ベストカー編集部 ほか 撮影/平野 学
初出:『ベストカー』2021年10月10日号
■鋭い視点でクルマの流行を斬る!
ベストカー まずは清水さんに、国産各メーカーのデザイントレンドを斬ってもらいます。トヨタは不評のキーンルックに代えて、ヤリスの毒虫顔がトレンドでしょうか!?
清水 毒虫顔はヤリスだけ。全体のトレンドじゃないよ。
ベストカー でも最近のトヨタは、毒のあるデザインが多いのではないでしょうか?
清水 トヨタは先代クラウンのイナズマグリルあたりから、「デザインで大胆に攻める!」と決めたんだ。でも、方向性は多種多様。キーンルックだって、プリウスはコケたけど、C-HRやカローラはウケた。超オラオラ顔のアルファードは大成功。「とにかく攻める!」という方針だけがあると見る。
ベストカー 一方では、アクアの落ち着いたデザインを見ると、ホッとするのも本音です。
清水 同感だが、アクアの初期受注はシブイとの噂がある。攻めなきゃダメなんだ! って改めて思ってるかも。
ベストカー レクサスは相も変わらずスピンドルグリルで、石の上にも3年というのでしょうか。品性は感じません。
清水 いやぁ、完全に世の中に浸透してるよ。もうBMWのキドニーグリルに近いアイコンになった。大成功だよ。
ベストカー 日産のVモーショングリルはどうですか。
清水 まったく平凡。
ベストカー アリア系の顔に舵を切っていますが、結構よくないですか?
清水 可もなく不可もなくでぜんぜん印象が薄い。
ベストカー ホンダは、フィットやシビックなどの、デコッパチのフロントマスクが気になります。
清水 デコッパチ? おでこが出てる? それはグリルが薄いからそうなるだけで、控えめで上品じゃないか!
ベストカー でも、地味では……。
清水 今の世の中、大胆か控え目かどっちかが吉じゃないかな。大胆のトヨタに対して、シンプルで控え目のホンダ。ホンダの小さいグリルやツリ目じゃないヘッドライトは、クラシカルでイケてるよ!
ベストカー 一方、ダサかったスバルは、VIZIVデザインで思いっきりカッコよくなってます。
清水 クラシカルなんだけど、ディテールでモダンさを出してるね。ついにスバルがデザインの方程式を作り上げたのかも。
ベストカー が、レヴォーグ、新型S4などちょっと顔がくどい感じが否めないです。
清水 逆。あの小さく鋭い目がハマってる。
ベストカー マツダのデザインは素晴らしいの一言ですね。
清水 素晴らしすぎて近寄りがたいのが難点だな。どこかに崩しを入れないと……。今後の課題はそれだ。
ベストカー 三菱のダイナミックシールドは、デリカD:5、eKクロス系は似合っていますが、エクリプスは前のほうがカッコよかった気がします。
清水 ダイナミックシールドは、平面顔じゃないとインパクトがない。三菱は全部顔をペッチャンコにしたうえで、ダイナミックシールドにしてほしいな〜。
■オラオラと控えめ、デザインは二極分化していくのかも
ベストカー 続いて、最近目につくデザインモードなんですが、まず「左右真一文字のリアコンビランプ」から。ポルシェ各車やレクサスNX&IS、ハリアー、ホンダヴェゼルがコレです。
清水 小手先でできることだし。一時の流行りだろう。
ベストカー 薄いヘッドランプはどうですか。ランクル300も極薄です。うちに入っている情報では新型クラウンも薄いヘッドランプになるそうです。
清水 先進的で知的な印象にしやすいよね。今後は薄いだけじゃなく、小さいのがトレンドになるかも。
ベストカー 目が薄いと凶悪な感じがしませんか?
清水 クールなので、冷酷には見える。これも一種のオラオラ顔だね。
ベストカー リアセンターのバッジはどうでしょう。
清水 え? なにそれ。
ベストカー テール中央のブランドバッジです。編集長がこれカッコいいと絶賛してるんですが。
清水 あまりにも小さいことなのでなんとも……。
ベストカー いまさらですが、グリルの巨大化は。
清水 なにせ効果が強烈だから。麻薬みたいなもんだ。
ベストカー BMWはキドニーグリルを超大型化してますし、まだまだエスカレートするんでしょうか。
清水 もはやグリルがデカいのはアタリマエなので、BMWみたいに、もともと小さかったアイコンを巨大化するというのは新たな一手だった。キドニーグリルみたいなアイコンを持ってるブランドは少ないし。
ベストカー BMWの大勝利ですか?
清水 横長キドニーはインパクトが薄いわりに品がないけど、M4系の縦長巨大キドニーは病みつきになる。
ベストカー 大っ嫌いなんですが。
清水 きっとそのうち好きになるよ。
ベストカー 威圧的な顔もそろそろ飽きてきませんか?
清水 ホンダみたいに、背を向けつつあるブランドもある。二極分化して、収束に向かうのかも。
ベストカー 最後に、個性的なツートーンカラーです。ムーヴキャンバスなど、とても雰囲気がいいですね。新型Zもルーフをブラックにしたツートーンがあるみたいで楽しみです。
清水 同感! 問題はカラーの組み合わせだよね。そこでセンスが問われる。ヤリスの色はまるでダメ。
ベストカー フィットNESSも失敗でしょう。マイチェンで消滅でしょうか。
清水 あれ、個人的には好きなんだけど……。なんでウケなかったかなぁ。
ベストカー ヴェゼルのボディ同色グリルはトレンドになりますかね?
清水 フェラーリ・ローマもそうなんだよね。控え目系デザインにハマるから、そっち限定で静かなトレンドになるかもしれないね。
●トヨタ:キーンルックから毒虫顔に!?
トヨタは世界でも数少ないフルラインメーカーで、商品は多岐にわたるので、統一デザインは採用せず、モデルごとに方向性が異なる。ただ、「攻めずに失敗するよりとにかく攻めろ!」という経営方針になったことは確かだ。10年ほど前、デザイン本部長に就任した福市氏はそう語っていた。
●レクサス:進化を続けるスピンドルグリル
当初は拒絶反応が多かったスピンドルグリルも、すっかり定着してレクサスのアイコンになった。それまでレクサスにはデザイン上のわかりやすいアイコンはなかったので、スピンドルグリルはブランドイメージ形成に大いに貢献した。これを少しずつ変えながら育てて行く方針か。
●日産:Vモーショングリル+アリアテイスト
トヨタ同様、フルラインメーカーとして統一デザインを持たなかった日産だが、その必要性を痛感してVモーショングリルを採用。しかしアイコンとしての特色が弱すぎて、完全に埋没している。このままでは埋没しっぱなしになることはほぼ確実。近いうちに方向転換が必要になると見る。
●ホンダ:柴犬顔はデコッパチで少々地味!?
別にデコッパチがデザインアイコンではなく(笑)、歩行者保護とグリル上端を下げたことで、フィットとシビックでたまたまそうなっただけ。ホンダデザインの新しい方向性は、シンプル&クリーンと見て間違いない。今後、複雑にしすぎたラインやエッジを整理整頓していくのではないか。
●マツダ:魂動デザインの飽くなき追求
マツダのデザインは非常に質が高いが、それがあまり売れゆきに結び付いていない。マツダのブランドイメージが、まだデザインのレベルについてきていない。個人的には、もうちょっと遊びやスキが欲しいと思うが、このままの路線で突き進んで道を拓くのももちろんアリ! ガンバレ!
●スバル:VIZIVコンセプトで大きく飛躍!?
スバルは小規模メーカーだけに、統一デザインは必須。現在の路線はスバルらしい質実剛健さと先進性をうまく表現している。デザインは固まったので次はカーボンフリー対策に邁進してもらいたい。とりあえずどれもこれも燃費が悪すぎる……ってデザインと関係ない話になってスイマセン。
●三菱:ダイナミックシールドで爆走中!!
ダイナミックシールドは、平面的な顔だと非常にインパクトが出るけれど、流線形の顔だと流れになじんでしまってインパクトがぐっと弱くなる。現状は後付けでダイナミックシールドのモデルが多いので、最初からダイナミックシールドを織り込んだデザインに更新されてからが勝負になるだろう。
●左右真一文字のリアコンビランプ
世界的に増加しているが、これを採用すると、腰高なSUVを幅広く安定した形状に見せることができ、結果的に速そうに見える効果があることが原因だろう。それがSUV以外のモデルにも広がりつつある。
ポルシェの場合は全モデルに採用されているが、スポーツカーの場合は後ろ姿に抑揚がなくなり、全体にのっぺりとした印象になっている。やはり、SUVにこそ適したテール形状ではないかなぁ。
●薄いヘッドランプ
ヘッドランプはLED化によって、非常に小さい面積にすることが可能になった。
それをどう活用するか、各社試行錯誤しているが、横長で薄くシャープなヘッドライト形状は、ひとつの正解(アタリ)だったように思える。
薄い横長は知的でスマートなイメージだ。ただ、あまりツリ目にすると、目をつぶって怒っているようで、逆にイメージが沸きづらい。今のところ薄い水平が吉か。今後ありとあらゆる展開がありそうだ。
●リアセンターバッチ
考えたこともなかったが、確かに最近増えているのかもしれない。中央にエンブレムを配置すると、威厳が増し権威的に見える。つまりブランドイメージが高いような錯覚を起こさせる効果が若干ある気がする。各社ブランドイメージの構築に必死なので、藁にもすがる思いでこれを採用しているのか?
と言ってもほんの付け足し程度の効果なので、特筆するほどのものではない。デザインは全体のフォルムが第一だ。
●リアピラーのブラックアウト
SUVの増加に伴って、リアピラーをブラックアウトするモデルが増えている。ピラーのブラックアウトは昔からある手法で、これを使うと開放的でカジュアルでスポーティな印象になる。逆にピラーが全部ボディ色だとフォーマルなイメージになる。
リアピラーのブラックアウトは、車体後方を軽く見せる効果がある。形状的に車体後方が重いSUVでこれを使うと、軽快でスポーティな印象になる。
●エスカレートするグリルの巨大化
アウディのシングルフレームグリルが大成功して以来、世界的なトレンドになり、どこまでも巨大化が止まらない。最終的には、顔面全体をグリルにするところまで行かないと収まらないだろう。
しかし、グリルの巨大化が一般的になるほど、逆に小さいグリルが存在感を強めるので、そちらへの方向転換も必ず起きる。各社、あらゆる方法を使って、自らの存在感を高める工夫が、永遠に続くのですね。
●ツートーンカラー
クルマがどんどんカジュアルなものになり、フォーマルな需要が減少していることと関係がありそうだ。ツートーンにすれば、それだけで一気にカジュアルでファッショナブルなイメージになるので。
ボディカラーは世界的に無彩色が主流で、ハデで鮮やかなボディカラーの率は低いが、ツートーンで一部を無彩色にすると、落ち着いて中和的に見える面もある。ツートーンを低コストで実現できるようになったことも大きい。
●エンブレムの簡素化
この動きは、世のデジタル化、つまり二次元化に対応したもので、エンブレムを平面的にしたほうが現代的でイケてるように見える……という判断による。
二次元化はシンプル化でもあるので、シンプル・イズ・ビューティフルとも言えないこともない。この流れは、デジタル世界が本格的に3D化するまで続く……ってことでしょうか? サッパリわかりませんが、法則としてはそういうことになるのでしょうね。
●スマートミラーの台頭
ルームミラーに車体後方に装着したカメラの画像を映すのは、2014年に日産が世界初の実用化。日産は軽自動車のデイズ/ルークスにも設定。各メーカーとも拡大採用しているなか、ハリアーは前後録画機能も付加されている。夜間や雨などの際の視界確保には便利だが、焦点が合いづらいのが難点。
●ディスプレイオーディオ採用車が激増
カーナビをスマホですませる人が多いこともあり、ディスプレイオーディオを標準装備するクルマが激増中。日本車では三菱が先鞭をつけた。スマホアプリの進化でナビ機能が使いやすくなり、バカ高い純正カーナビより安いのが何よりいい。スマホの進化さまさまです。でも運転中の操作には要注意。
●センターコンソールのディスプレイの大型化
テレビ画面、スマホ画面同様にクルマの液晶モニターもどんどん大型化。ハリアーは12.3インチ、レヴォーグは11.6インチの縦型タブレットのような超巨大なディスプレイをセンターコンソールに装着。現在の究極はHonda eのダッシュボードほぼ全面液晶モニターってヤツだ。ベンツも積極的に展開中。
●液晶メーターを採用するクルマが激増
もはやスピード、回転数だけ表示するメーターは少数派で、情報表示板の役目を担う。レヴォーグは12.3インチ、シビックは10.2インチなど大型化が顕著。日本車ではまだまだ少数派ながら、ナビ画面を映し出すのは欧州車では当たり前になっている。となれば、さらに大型化の可能性大。
●切り替え自在なメーターが続々登場
今のクルマはいろいろな走行モードが与えられていて、そのモードによってメーターの表示も切り替え可能というのは、人気というよりも当たり前になっている。元気な走りができるスポーツモードでは表示やエフェクトが赤色になったりして気分を盛り上げるのにもひと役買っているアイテム。
●室内イルミネーションが大きく進化
光り物は人間をワクワクさせる。気分を高揚させたり、リラックスさせたり、はたまたエッチな気分になったりもする。シボレーカマロは細かく色を変更できて最高。天井に星を投影して車内をプラネタリウムにする、そんな機能もロールスロイスゴーストで実現。近い将来、日本車でも登場するはず。
●慣れるのが難儀なシフトが続出
パーキングブレーキが電動になりスイッチ操作となったのと同様に、現在シフトレバーが続々とボタン化、スイッチ化されている。ボタンやスイッチになってもう大変。とっても使いづらい!! クルマの数少ない改悪だ、と声を大にして訴えたい。しかし、今後さらにエスカレートすること確実。
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