【豊田社長スピーチ全文】全EV化戦略に立ちふさがる壁と愛やワクワクを原動力に突き進むトヨタの本気

【豊田社長スピーチ全文】全EV化戦略に立ちふさがる壁と愛やワクワクを原動力に突き進むトヨタの本気

 2023年1月13日~15日、幕張メッセで開催されている東京オートサロン2023にて、トヨタ自動車は記者発表会(プレスカンファレンス)を実施。登壇した豊田章男社長のスピーチ全文を紹介し、今回トヨタが出品したAE86レビンのBEV換装車、同トレノの水素エンジン換装車について紹介します。

文/ベストカー編集部、トヨタ、写真/ベストカーWeb編集部、トヨタ

■「誰一人として、地球がどうなってもいいなんて思ってもいません」

日時:2023年1月13日(金)09:30~
場所:東京オートサロン2023(幕張メッセ)トヨタブース
背景:プレスカンファレンス(記者発表会)にて、トヨタの出展概要を豊田章男社長がプレゼンテーション。舞台上には、ボディサイドに「電気じどう車(実験用)」と書かれたAE86レビンと、「水素エンジン(実験用)」と書かれたAE86トレノが展示されていた。

 以下、会見会場での豊田社長スピーチ全文を引用します。

東京オートサロン2023、トヨタブースの記者発表会壇上、豊田社長の登壇前に、2台のAE86が置かれておりました。「電気じどう車(実験用)」と書かれていますが、これは…
東京オートサロン2023、トヨタブースの記者発表会壇上、豊田社長の登壇前に、2台のAE86が置かれておりました。「電気じどう車(実験用)」と書かれていますが、これは…

【豊田章男社長スピーチ全文(トヨタ公式リリースより引用)】

 おはようございます。豊田でございます。あけましておめでとうございます。

 年明けに私の名前が載った記事がふたつ、話題になっておりました。ひとつは「トヨタの社長、賀詞交歓会欠席」。
(編集部注/2023年1月5日に予定されていた(経済3団体と自動車関連5団体の)賀詞交歓会に関して、「出席を予定していたトヨタ自動車の豊田章男社長は、新型コロナ感染症の陽性反応が出たため、急遽同会を欠席する」との報道があった)

 ご心配をおかけいたしました。本日こうして新年のご挨拶ができて、ようやく私も年が明けました。

 もうひとつはこちら。

「トヨタは日本を諦めつつある 豊田章男社長のメッセージ」

 強烈なタイトルもあり、多くの方にお読みいただけたようです。共感の声もたくさんいただくことができました。
(編集部注/2023年1月1日、上記タイトルの記事が『ITmediaビジネス』に掲載された。日本政府は自動車産業の保護・成長やカーボンニュートラル社会への取り組みに対してそれほど積極的とは言えず、グローバルでの成長を目指すトヨタとしては、ヘッドオフィスを(現在の愛知県豊田市や東京都文京区から)米国とタイ(ASEANや中国市場向け)へ移転するかもしれない、企業としての売上や成長を考えるとそのほうが有利ではないか。ただトヨタは日本市場再成長の可能性を今も諦めておらず、2023年は、その信条を持ち続けるに値するかどうかが試される1年となるだろう、という要旨)

 ただ、一部、トヨタが海外に移転する…と、とらえておられた方もいらっしゃいました。ご安心ください。本日の発表は、海外移転ではございません。

 ただ、昨年、海外に行って、強く感じたことがあるのは事実です。

 それは「自動車産業への感謝」でした。日本と海外ではそこに大きな差があります。

一部ジョークを交えながらも、真剣に語り掛ける豊田章男社長。つめかけた記者陣にも問題意識が共有される。今回のスピーチも非常に画期的な内容でした
一部ジョークを交えながらも、真剣に語り掛ける豊田章男社長。つめかけた記者陣にも問題意識が共有される。今回のスピーチも非常に画期的な内容でした

 海外では、自動車産業がその地域の成長に貢献していることに、ものすごく感謝されます。「これからも頼みます」…と言われれば、本当に嬉しくなります。しかし、日本でこうした思いになれたことはありません。

 記事には「日本を諦めつつある…」ともありましたが、2023年の日本は、クルマ好きの想いを世界に発信していくチャンスの年だと思っています。

 その想いというのが、こちらです!

「クルマ好きだからこそできるカーボンニュートラルの道がある」
「クルマ好きを誰ひとり置いていきたくない」

 この思いはオートサロンから始まり、「G7」(2023年7月に広島で開催される先進国首脳会議)にも繋がってまいります。

 こちらのAE86トレノとレビン…、これらがその想いをカタチにしたものです。

 このトレノは水素エンジン車です。ですが、スーパー耐久シリーズの、GRカローラのエンジンではありません。もとの4AGを水素エンジンに改造しました。

 一方のレビンはバッテリーEVです。半世紀前にできた車名ですが、実はEVの2文字が隠れておりました。50年がかりで、ようやくバッテリーとモーターを搭載したというわけです。

「レビンは半世紀前にできた車名ですが、実はEVの2文字が隠れておりました」と言われてキョトンとした記者陣の前のスクリーンに映し出された画像。全員「あ、なるほど…」と納得した時間でした
「レビンは半世紀前にできた車名ですが、実はEVの2文字が隠れておりました」と言われてキョトンとした記者陣の前のスクリーンに映し出された画像。全員「あ、なるほど…」と納得した時間でした

 もともとの4AGも宝物ですから、大切におろさせていただきました。ただ、マニュアルミッションはそのまま…、クラッチ操作やシフト操作が楽しめます。

「カーボンニュートラルの時代でも愛車に乗り続けたい!」というチャレンジです。

 また、そちらに置いてあるのは、WRCのラトバラ代表が、昨年ヒストリックラリーで優勝したST165セリカです。

 こちらのAE86は、プロドライバー佐々木雅弘選手を育てた師匠であり、彼がいつでも原点に戻れるようにレストアしたクルマ…。

 2人に限らず、私には、クルマを大切に乗り続ける友人がたくさんいます。みんなクルマが大好きです。

 そのなかの誰一人として、「地球がどうなってもいい」なんて思ってもいません。「カーボンニュートラルに向けて自分ができることはなにか?」を真剣に考えてくれています。

 そんなクルマ好きたちと話していて気づいたのが、このAE86のように、「コンバージョンの先にカーボンニュートラルの実現がある」という世界です。

 多くの自動車メーカーが、2030年から2040年頃をターゲットに、バッテリーEVへのシフトを目指しています。

 ところが現実には、これから売り出す新車をEVにするだけでは、2050年のゼロカーボンは達成できません。保有車…つまり、すでに誰かの愛車になっているクルマにも選択肢を残していくことが大切です。

今回のスピーチでおそらく一番重要な指摘とスライド。全世界の新車販売台数約8000万台のうち、仮にすべてがBEVになったとしても(なお2022年は約10%がBEVだったと推計)、全保有車がBEVになるには長い時間がかかることを示すグラフ
今回のスピーチでおそらく一番重要な指摘とスライド。全世界の新車販売台数約8000万台のうち、仮にすべてがBEVになったとしても(なお2022年は約10%がBEVだったと推計)、全保有車がBEVになるには長い時間がかかることを示すグラフ

 東京オートサロンには、自分の大好きなクルマと、カーライフを楽しみたい人たちがたくさんいらっしゃいます。

 AE86をコンバージョンした技術は、まだまだこれからですが、本日、こんなお話をさせていただくことで、クルマ好きたちが「カーボンニュートラルで大好きなクルマに乗れなくなっちゃう」……と寂しく思うのではなく、「クルマ好きだからこそやれるカーボンニュートラルがあるんだ」と、未来にワクワクしていけたなら、今年、世界に向けて、大きなメッセージが発信できるのではないでしょうか。

 モリゾウもワクワクしてまいりました!

 クルマ好きの皆さん! 皆さんの、おひとり、おひとりが、カーボンニュートラルに向けたチーフエンジニアです!

 一緒に未来をつくりましょう!

 ありがとうございました。

【豊田章男社長スピーチ全文引用ここまで】

サーキット走行可能なレベルまで作り込まれたAE86。まだまだ技術的な問題は多いが、「かたちだけでも残したい」と思っている旧車ユーザーには福音となる可能性も
サーキット走行可能なレベルまで作り込まれたAE86。まだまだ技術的な問題は多いが、「かたちだけでも残したい」と思っている旧車ユーザーには福音となる可能性も

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