ファンバイクは少量生産に切り替わり、開発も小ロットに対応?
アーキテクチャーシリーズプロジェクトは多機種少量生産を可能とする車両開発の手法だが、実は生産に関してはすでに一部が少量ロットの時代になっている。ホーク11と同様に国内専用モデルとしてロングセラーになっているCB1300シリーズは、「セル生産」方式で組み立てられていた。
筆者は、ホンダのファンバイクを主に生産する熊本製作所を見学したことがあるが、10年程前の段階で、CB1300シリーズはライン外で一台一台少人数のチームが組み立てていた。ヤマハでも国内専用となったモデル末期のSR400のエンジンが、一人の技師によって手組されていたことが知られている。
だが、問題は「開発」にある。小ロットの製品は専用部品の開発がハードルとなっていたのだ。ホンダには小ロットの製品アイデアは無数にあり、ホーク11もその一台。しかし開発者らが“裏ホンダ”と呼ぶアイデアが発売に結びつくことはなかった。
後藤氏は“裏ホンダ”について、「ホーク11は研究開発部門の『アフリカツインのエンジンでワインディングを楽しみたい』という提案が基になっています。(アイデアとしては)通常のラインナップに乗るようなグローバル視線での政策性などなく、ライダー一個人の実感でしかありません。
そもそも普通にしないといけないルールはありません。もっと色々なやり方があるはずです。結論は”実行可能”」と開発責任者に任命されると、通常とは異なるプロセスで開発に臨んだという。
ホーク11の最大の特徴は、ロケットカウルにあると言っていいだろう。アフリカツインのオンロード仕様と言っても、製品としてどんなライダーがどう楽しむかを設定しないとならない。「作りたいもののキモは? どこを光らせるか?」を考え抜いて一点突破を図ったのがロケットカウルなのだ。
ロケットカウルは金型を用いた大量生産とせず、カスタムパーツでも一般的なFRP成形にすることで費用を抑えている。他にも、ホーク11専用部品となるエアクリーナーボックスを通常とは異なる生産方法にするなどして、販売価格を抑えている。
後藤LPLの贈る言葉「もっといろいろなクルマが造れる」
後藤氏は「(ホンダは、)もっといろいろなクルマが造れる」と最後に付け加えた。趣味の乗り物であるファンバイクは、もっときめ細かくユーザーのニーズに応える必要があり、後藤氏はホーク11を通してたとえ台数が少なくても独自の走りや価値が提供できることを示したかったのだ。
技術だけではなく、小ロット製品の開発には無駄を排した強烈なリーダーシップも欠かせない要素となる。「チームの方針は、シンプル、集中、スピード。すべてに着地点を読めるLPLだからこそできる開発」と、開発責任者代行の吉田氏は振り返る。1980年代にホンダに入社した後藤氏は、毎週のように新機種が立ち上がる現場で、若手がものづくりに集中できる環境と、「神のような」開発責任者の采配を身をもって体験しており、それをホーク11の開発に応用したのだ。
1980年代のバイクブームから一巡したが、「大量生産」と「少量生産」という180度異なる製品で当時と同じ開発チームの運営が実践され、ホーク11は完成した。現在、日本のビッグバイク市場は、ベストセラーのZ900RSが年間4800台ほどの販売台数を記録しており、アーキテクチャーシリーズプロジェクトなら日本人好みの専用モデルが開発可能なことを示している。
最後に後藤LPLは、ホーク11を世に送り出すにあたり、後進へのメッセージも残した。
・バイクが好きで、バイクが作りたいからホンダに入ったなら、何が大切かを考えた上でそれを意思として語るべきだ
・ホンダには製品を育てる義務がある。その責任を果たせ
など、去り行くエンジニアが残した言葉が響く。
ホーク11をきっかけに、今後も「もっといろいろなクルマ」が登場することを期待せずにはいられない。
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