「パイプフレームだと太くなりすぎてダックスじゃない!」との結論に
しかし、実際に量産開発をスタートしてみると、モノコックフレームにはコストや量産性という課題が浮き彫りに。課題を社内共有する現状報告の場では、冒頭のコメントのように「モノコックが成立しないならパイプフレームも検討せよ」との指示が下った。
「つまり開発チームとしては仕事量が2倍になったのです。指示に従ってパイプフレームも進めながら、一方で開発チームがやりたかったモノコックの開発も進めました」(八木氏)。
双方の検討を進めた結果、「パイプフレームはダックスじゃないという事実が判明した」という。
「パイプフレームだとダックスらしいシルエットからハミ出てしまいます。それに背骨からセンターラインを避けてタンクその他の内容物を配置し、外装をつけると幅が広がりすぎる。これではダックスを名乗れない」(八木氏)。
その結果、部品配置を含めたスペース効率に優れたモノコック構造が合理的という結論に至った。
八木氏は、「今思えば、無理矢理ひねりだしたロジックに上手くだまされていただいた経営陣の懐の深さに感謝したいです」と語る(笑)。
昨今の効率化重視のモノづくりを考えれば、パイプフレームが採用されても何ら不思議ではない。だが、近年のリバイバル作がヒットしているのは、車両の本質を見極め、真摯にモノづくりに向き合った結果。こうした熱量が近頃のホンダの勢いを生み出し、ダックスにも受け継がれている。
スケッチはナシ、一つの3Dデータを各担当者が共有して同時に造り込む
フレームは、プレス成形性と125cc二人乗りに求められる強度剛性から1.6mm厚の鋼板を採用。初代ダックスの2ピースに対し、3ピース構成としている。さらにヘッドパイプ下からエンジンハンガー部に向かうボトム部をへこませて強度剛性を確保。ここにワイヤーハーネスなどを隠し、後付けの補強部材などが表面から見えないよう造り込んだ。
モノコックフレームは性能を出すのが難しいと言われる。特にダックスの場合、性能達成のためには面形状を変更する必要があり、スタイルまで変わってしまう。さらに内部のスペースに限りがあり、一つの部品を変更すると他の部品にまで影響が及ぶ。
つまり常に全体のレイアウトを見ながら、複数の部品を同時に設計する必要があったのだ。そこで、全てをデータ上で造り込む異例の手法を採った。
「スケッチやクレイモデルを一切つくらず、最初から一つの3Dデータを各設計者が共有しながら性能と外観を同時に造り込みました。常に本番です。これもゴールとなる姿が明確だったダックスだからこそできた面が大きい」(八木氏)。
その証拠として、通常のスタイリング検討スケッチでさえ一枚もないという。
未知の技術だけに、“音鳴り”など予想外のトラブルが!
フレームに関して苦労した点を車体設計PLの上坂徹氏に尋ねると「全部です(笑)。現在、社内にプレスフレームの経験や知見がないので、製法をはじめ、本当に一から検討しました。さらにデザインと内容物を成立させながら、強度、剛性、操縦安定性など全てをバランスさせるのが大変でした」と話す。
加えて、「音鳴り」という予想外のトラブルも。鋼板モノコックならではの特殊な現象で、エンジン、ポンプなど振動するモノと同じ周波数だと共振してしまう。そこで、燃料タンクマウントラバーにフレーム内側から一定のテンションをかける機能を持たせ、音鳴りを抑える効果を狙った。
剛性に関しても苦労を重ねた。
「モノコックは剛性が高くなりがち。125ccで12インチホイールの場合、フレームが硬いと丸太に乗っていようなフィーリングになってしまいます。様々な場所をチューニングすることで、ほぼモンキーやグロムなみのねじれ剛性に調整しました」(上坂氏)。
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