先祖返り? 原点回帰? 結局のところトロリーバスって新時代の乗り物なんじゃないか?

先祖返り? 原点回帰? 結局のところトロリーバスって新時代の乗り物なんじゃないか?

 2024年12月、川崎市高津区にある二子塚公園に保存され、地域の集会所として使用されてきた旧川崎市交通局のトロリーバス車両104号車が、老朽化のため解体されると報じられた。

文・写真(特記以外):橋爪智之
構成:中山修一
(海外の現役トロリーバスの写真つき記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■姿を消した日本のトロリーバス

二子塚公園に置かれていた当時のトロリーバス104号(写真:中山修一)
二子塚公園に置かれていた当時のトロリーバス104号(写真:中山修一)

 トロリーバス車両104号は1967年に路線廃止後、この場所に設置されたもので、1950年代に製造された古い車両を1963年に車体を更新したもので、いったんそこでリセットされているが、それでもすでに60年以上が経過している。

 半屋外の雨ざらし状態で置かれていたので、当然車体の傷みは激しいが、解体を惜しんだ愛好家が交渉の末に譲り受け、修復されることになり、先日無事に搬出された。

 その話題となったトロリーバスだが、日本では1960~70年代まで都市部にも見られたが、あまり普及することなく廃止されていった。

 最後まで残されていた富山県の黒部渓谷で運行されていた立山トンネルトロリーバスも、2024年11月30日に運行を終え、日本のトロリーバスの歴史はここで完全に終わりを迎えた。

 トロリーバスは、法令上は無軌条電車(線路のない鉄道)と呼ばれ、鉄道と同列に扱われ、軌道法や鉄道事業法が適用となる。

 日本の場合は、いわゆる大型二種免許だけではなく、鉄道車両を運転するのに必要な動力車操縦者運転免許が必要とされた。

 こうした複雑な法令上の問題に加え、架線の設置やメンテナンスが必要なことや、停電が発生した場合は走行不能となること、工事や事故の際には迂回ができないこと、などといったデメリットがあったことが、普及を阻んだ理由と考えられる。

■意外と元気な海外のトロリーバス事情

 しかし国外へ目を向けると、まだ多くのトロリーバスが運行されており、中には現在も路線網を拡張している都市がある。

チェコ東部オストラヴァのトロリーバス。トラムを補完する形で使われている
チェコ東部オストラヴァのトロリーバス。トラムを補完する形で使われている

 そんな海外のトロリーバス、ここではヨーロッパの事例をいくつかご紹介していこうと思うが、その前に先ほどトロリーバスのデメリットについていくつか挙げたが、海外で積極採用されるメリットは何があるのだろう。

■環境問題が存続を後押し

 一番の大きな理由が、電動モーターで走るトロリーバスは、排出ガスを出さず環境に優しいという点で、環境問題が声高に叫ばれている昨今、ディーゼル車両を置換える形で採用している都市もある。

 燃料費を含む運営費用を安く済ませることができることから、かつて裕福とは言えなかった旧社会主義国家でも使われているのをよく見かける。

ミラノの旧型車。ピニンファリーナがデザインした200型は1993年にデビューし、今も僅かに残されている
ミラノの旧型車。ピニンファリーナがデザインした200型は1993年にデビューし、今も僅かに残されている

 燃料を必要とする車両と比較して、航続距離を気にする必要がないという点も、運用効率の面で大きなメリットとなっている。

 変速機が要らず、出だしから大きなトルクを発生することから、加減速が頻繁に行われる都市部はもちろんのこと、粘着力の関係でトラムでは上ることが困難な急坂も、トロリーバスであればスムーズに走行することができる。

 平坦な区間はトラム、勾配区間にはトロリーバスと、使い分けている都市もある。通常のバスと比較して、構造が簡素でメンテナンスがしやすく、長寿命であるため、同じ車両を30年近く使い続けている事業者もある。

ブダペストに最近まで残っていたイカロス製トロリーバス。残念ながら現在は新車に置き換えられてしまった
ブダペストに最近まで残っていたイカロス製トロリーバス。残念ながら現在は新車に置き換えられてしまった

 デメリットとして、停電時や工事の時には運休をしなければならない点を挙げたが、近年の車両はディーゼルエンジンや小型高性能バッテリーを搭載し、無架線地帯でも走行が可能となった点も大きい。

 中にはチェコ共和国のプラハのように、途中に無架線区間を設け、最初からバッテリー走行を前提としているところもある。

次ページは : ■現在も路線網が拡大

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