伝説の系譜 ドイツの大空を駆けた名機「フォッケウルフFw190」【名車の起源に名機あり】

新造されたFw190が今も飛ぶ

BMW製エンジンを搭載した飛行可能な「フォッケウルフFw190」【名車の起源に名機あり】
フルグレック社製のキットとして新造されたFw190 写真/藤森篤

 筆者は飛行可能なFw190を3機取材したと先述したが、実はこれらはすべて、キットから作られた新造機である。残存するFw190の部材と残された図面を頼りに、ドイツのフルグレック社が20機分のキットを製造して販売。大戦機コレクターや博物館がこの精巧なキットを購入して組み上げた新造Fw190が、今も世界の空を飛んでいるのだ。

 日本と同様に、敗戦国であるドイツの兵器は連合国によって破壊、破棄された。そのため現存機は極端に少ない。だからこそ、フォッケウルフ、メッサーシュミットなど、当時世界を席巻した機体は希少なこともあって人気が高い。これらの機種においては新造機であっても、大戦機コレクターの間で、高値で取引されているのだ。

 ただし、現存する運転可能なBMW 801は入手が困難。そのためこのFw190のキットでは正規の「BMW 801」ではなく、ソ連製「シュベツォフAsh-82T」の搭載が指定されている。

世界に一機だけ現存する、幻のBMW 801搭載機

BMW製エンジンを搭載した飛行可能な「フォッケウルフFw190」【名車の起源に名機あり】
世界に唯一現存する、オリジナルのBMW 801を搭載したフォッケウルフFw190 A-5 写真/藤森篤

 だが、「BMW 801」を搭載したオリジナルのフォッケウルフFw190が、世界に一機だけ残存している。その機体「フォッケウルフFw190 A-5」は、つい最近まで「フライング・ヘリテージ&コンバット・アーマー・ミュージアム」(ワシントン州)が所有していた。

 ロシアの湿地帯から回収し、飛行可能な状態にまで復元されたこの機体は、かつて故ポール・アレン氏がそのオーナーだった。マイクロソフト社の共同出資者でもある氏は、この兵器博物館を私費で設立した生粋の兵器コレクターであり、フィリピン沖に沈んだ「戦艦武蔵」を海底に発見したことでも知られている。

 しかし、2018年に氏が他界し、その後に見舞われた新型コロナの影響を受け、同博物館は2020年6月に閉館。筆者はついにこの機体を見ることができなかった。

 その後、この希少なフォッケウルフFw190 A-5は、同州内にある航空機設計会社に保管されているという情報もあるが、現オーナーなどは判然としていない。

機械式アナログ・コンピュータ「コマンドゲレーテ」

BMW製エンジンを搭載した飛行可能な「フォッケウルフFw190」【名車の起源に名機あり】
スロットル操作だけであらゆるエンジン制御を可能とした全機械式のアナログ・コンピュータ「コマンドゲレーテ」 写真/V.A.

 大戦機に詳しい方にフォッケウルフFw190の特徴を聞けば、「コマンドゲレーテ」と答えるに違いない。

 コマンドゲレーテとは、完全機械式のアナログ・コンピュータである。かつての大戦機では、離着陸、戦闘時、速度、高度などの飛行状況の変化によって、スロットル操作だけでなく、燃料流量、プロペラピッチ、過給機の調整、点火時期など、実にさまざまな手動調整が必要だった。

 しかし、それらをすべて自動調節してくれるのがコマンドゲレーテであり、これを搭載していれば、パイロットはスロットル操作をするだけで万事うまくいく。

 今のジェット機で言えばファデック(FADEC)、クルマではECUなどの電子機器システムが行ってくれるエンジン制御を、歯車だらけの精巧なアナログ・ボックスが処理するのだ。

 カリフォルニア州にある大戦機専門のレストア工房を訪れた時、このコマンドゲレーテを仔細に拝見することができた。当時の取り扱い説明書もあり、そこには構造図なども記載されていたが、その調整を担当されていたスタッフの方が、「まだ怖くて開けない」と言っていたのが印象的だった。それほどこのアナログ・コンピュータは複雑、精密であり、構造を理解するにはかなりの検証が必要だったのだと思われる。

次ページは : BMWが分社化したメッサーシュミット社

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

不死鳥のごとく蘇る! トヨタS-FR開発計画は再開していた! ドリキンこそレジェンドの土屋圭市さんがトヨタのネオクラシックを一気試乗! GWをより楽しく過ごす情報も満載なベストカー5月26日号、堂々発売中!