脱炭素の次世代燃料 切り札は水素? バイオ? それとも??

■水素を利用して液体燃料にする合成燃料

 2つめに紹介したいのが合成燃料である。これはその名の通り、化学的に生成された液体燃料だ。その原料は再生可能エネルギーで作られた水素と、工場や家庭から排出されるCO2だ。さらに再生可能エネルギーの電力を使って、化学合成されることで炭化水素を成分とした液体燃料を作り上げることができる。

 水素のエネルギー密度や運搬性を解決する手段として考えられたのが合成燃料と言ってもいい。脱炭素対策で、このところ合成燃料を利用しようという動きが欧州でも日本でも目立ってきた。

 水素エンジンを搭載したカローラスポーツを走らせたトヨタも、同じスーパー耐久で次期シーズンはGR86も合成燃料で走らせることを表明している。

 スバルも同様に特認車両のST-Qクラスで合成燃料によってBRZを走らせる計画だが、BRZは市販車ベースの水平対向エンジンなのに対し、GR86はGRヤリスの直列3気筒ターボエンジンを1.4リッターにダウンサイジングして搭載させるようだ。

 これは同じ条件で2台走らせるより、異なるパワーユニットにしてより多くのデータを得ようとしているからだろう。

水素のエネルギー密度を解消するために生まれた合成燃料。現在この燃料を使用してスーパー耐久でカローラが戦っている(marekphotodesign-com@AdobeStock)
水素のエネルギー密度を解消するために生まれた合成燃料。現在この燃料を使用してスーパー耐久でカローラが戦っている(marekphotodesign-com@AdobeStock)

 しかし水素を炭素と結び付けて、燃やさずに液状化させるのは、それだけ外からのエネルギーを必要とする。CO2をCO(一酸化炭素)にして、水素と反応させることで水と合成燃料を作るのだ。

 モータースポーツの世界やスーパーリッチの趣味向けに供給するなら高価でもいいのだろうが、せいぜい今のガソリン価格の倍程度までコストダウンできなければ、主役級の燃料となるのは難しいだろう。

 水素にエネルギーを費やして液体燃料にするなら、水素のまま燃やした方が効率がいい。そう考えたのが水素エンジンで、クルマのエンジン以外にも発電用などでも開発は進んでいる。

■植物、藻、廃油などから作られるバイオ燃料

 そこで最後に紹介したいのがバイオ燃料である。このバイオ燃料もかなり昔から研究、導入されている。サトウキビを大量に栽培しているブラジルでは、古くからガソリンとエタノールの混合燃料が使われてきた。米国のインディカーレースのマシンもエタノールを使っている。

 サトウキビやトウモロコシを発酵させて作るエタノールは、食物との競合が起きてしまうので食用にならず、成長が早い植物を原料にエタノールを作る方法も考えられた。これが第2世代のバイオエタノールで、糖質ではなく食物繊維をエタノールにするため、やや効率が悪いのが難点だ。

 現在は第3世代のバイオ燃料として、微細藻類を培養して燃料を作る研究が進んでいる。世界中に二千種類以上いると言われる藻の仲間には、体内に油を作って溜め込む性質をもつ種類がいくつもいる。これを培養して油を搾り、改質することで燃料とするのだ。

 IHIはこの分野では最も進んでいて、ついに今年、微細藻類から作ったSAF(持続可能な航空機用燃料)を作り上げ、日本で国内線の燃料とすることに成功している。

 デンソーも微細藻類によるバイオ燃料を長年研究しており、クルマ用の燃料としてはトヨタと共同開発できる環境は整っている。

 マツダも広島大学などと共同研究して微細藻類によるバイオ燃料の開発を行なっているが、それと並行してユーグレナが食用廃油から改質して作るバイオ燃料「サステオ」を使ったバイオディーゼルをスーパー耐久で走らせ始めた。すでに公道では実証実験で確認済みだから、おそらく大きな問題なく耐久レースも走り切れることだろう。

第3世代のバイオ燃料は微細藻類を培養して燃料を作る。また株式会社ユーグレナが食用廃油から改質して作るバイオ燃料「サステオ」を開発し、公道では実証実験済みだ。写真は横浜市鶴見区にあるユーグレナのバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント
第3世代のバイオ燃料は微細藻類を培養して燃料を作る。また株式会社ユーグレナが食用廃油から改質して作るバイオ燃料「サステオ」を開発し、公道では実証実験済みだ。写真は横浜市鶴見区にあるユーグレナのバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント

 ユーグレナは微細藻類であるミドリムシの人工培養に成功したベンチャーだから、ミドリムシより油を溜め込む性質の高い藻を培養すれば、一気に実用化へのブレイクスルーを果たす可能性もある。

 ただしバイオ燃料の原料となる微細藻類の培養はエネルギー消費は少ないが、大量に培養するとなると広大な敷地が必要で、台風などの災害などでダメになった場合のリスクが大きい。太陽光を利用するため、培養池は屋外に限られるからだ。

 またWRCが2022年から導入するのは、バイオ燃料と合成燃料をブレンドしたもので、「サステナブルフューエル(持続可能な燃料の意)」と呼ばれている。これは工場などが排出するCO2から炭素を取り出し、再生可能エネルギーで水から取り出した水素と合成燃料を作り、それに植物などから作られたバイオエタノールを混合させるようだ。

 モータースポーツの世界が日本だけでなく世界レベルでもサステナブルフューエルを採用する傾向があるように、エンジンによるモータースポーツでなければ人々を熱狂、感動させることが出来ない、と思っている人々は少なくない。

 それに完全に合成燃料やバイオ燃料だけを使った液体燃料にしなくても、化石燃料との混合から普及させる手段も採れる。そうやって規模の拡大とコスト削減を進めていくやり方もアリだと思う。

 20年後の2040年あたりは、移動のためにカーシェアのEVに割り切る層と、EVのオーナー、ハイブリッド車のオーナーの3つにパーソナルモビリティが大別される時代になっているかもしれない。

 エンジンを捨てる宣言をしたホンダだが、日本のその他のメーカーがこれだけエンジンの存続を賭けて挑戦を始めているのを見て、いつか方針を変える日が来るのでは、と筆者は期待している。

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