【なぜハイブリッド車は誤発進が発生する?】わかりづらいシフトの長所と短所

問題は「中立ポジション」にあり?

先代30系プリウスのシフトレバー。どのレンジに入っているかはメーター内の表示で確認できるが、どのレンジに入っていてもレバー位置は見た目は同じ。常に元の位置(中立ポジション=ニュートラルポジション)に勝手に戻るので区別がつきにくい。しかもエンジンが停止しても無音だから気づかない
先代30系プリウスのシフトレバー。どのレンジに入っているかはメーター内の表示で確認できるが、どのレンジに入っていてもレバー位置は見た目は同じ。常に元の位置(中立ポジション=ニュートラルポジション)に勝手に戻るので区別がつきにくい。しかもエンジンが停止しても無音だから気づかない
先代30系プリウスのメーターパネル内に表示されるシフトポジション
先代30系プリウスのメーターパネル内に表示されるシフトポジション

 操作方法に関しては、慣れてしまえばさほど複雑ではない。パワースイッチを押してシステム作動(READY)状態として、中立ポジションにあるシフト(セレクト)レバーがP(パーキング)ポジションを選択していて「ブレーキペダルを踏んで」停止状態であることを確認する。

 次にシフトレバーをゲートに沿って右にずらしたうえで、前方に押し込めばR(リバース)に、車両後方に引けばD(ドライブ)に入る。Dポジションから車両後方にずらせばB(ブレーキ)に、Dに戻す場合には同じ操作を行うというのが基本操作となる。

 いっぽうで、どのような操作してもシフトレバーが中立ポジションに必ず戻ってしまうことが、操作のわかりにくさを助長している。

 シフトポジションが物理的に一見して確認できないことが、操作の手順の上で違和感をもたらす要因になっているように思えるのだ。

“誤発進”はなぜ起こり得るのか?

現行50型プリウスのシフトレバー。取扱説明書には「一定以上の速度で走行中にNを選択した場合は、シフトレバーをNの位置で保持しなくてもNに切り変わります。この場合はブザーが鳴り、マルチインフォメーションディスプレイに確認メッセージが表示され、Nに変わったことを運転者に知らせますと書いてある
現行50型プリウスのシフトレバー。取扱説明書には「一定以上の速度で走行中にNを選択した場合は、シフトレバーをNの位置で保持しなくてもNに切り変わります。この場合はブザーが鳴り、マルチインフォメーションディスプレイに確認メッセージが表示され、Nに変わったことを運転者に知らせますと書いてある

 それでは最も電制シフトの特異さが表われてしまう操作を説明しよう。

 まずP(あるいはD/Rポジション)からNポジションに入れる時は、「しばらく(そのまま/少しの間)保持」しないと入らない。

 Nポジションでブレーキペダルを踏まない、もしくはアクセルペダルを踏んでいると、ビープ音による警告音とともに注意喚起が行われる。

 プリウスではディスプレイに「Nレンジに入っています。アクセルを緩めて希望レンジに入れてください」と表示される。それでも警告を無視して、シフトレバーを右に押し続けてもNポジションを選択できる。

 さらにドライバーが乱雑なシフト操作を行い(何らかのパニック状態にある場合など)、車両システムが操作を無効と判断した場合には、Nポジションに自動的に切り替わる場合がある。

現行50型プリウスのメーターパネル
現行50型プリウスのメーターパネル
現行50系プリウスの場合、DレンジからNレンジに入れ、アクセルを踏むとメーター内に「Nレンジです。アクセルを緩めて希望レンジに切り替えてください」という表示が出てピーという警告音が鳴る。こうした警告に慌ててアクセルを踏んだままNレンジからDレンジに入れると急発進してしまう
現行50系プリウスの場合、DレンジからNレンジに入れ、アクセルを踏むとメーター内に「Nレンジです。アクセルを緩めて希望レンジに切り替えてください」という表示が出てピーという警告音が鳴る。こうした警告に慌ててアクセルを踏んだままNレンジからDレンジに入れると急発進してしまう
現行50型プリウスの場合、DレンジからNレンジに切り替える場合はブレーキを踏まなくてもシフトレバーをNレンジにしてしばらく保持するとNレンジに入る
現行50型プリウスの場合、DレンジからNレンジに切り替える場合はブレーキを踏まなくてもシフトレバーをNレンジにしてしばらく保持するとNレンジに入る

 つまり、上記のように、Nポジションに「意図せずに」入っている状態が起こりうる。

 そこで「ブレーキペダルを踏まず」「アクセルペダルを間違えて踏んでいる」状態で、「N→Dへとシフトチェンジ」してしまうと、いわゆる「誤発進」が起こりうることになる。

Nレンジでアクセルを踏み込んだ状態でDレンジに入れた場合、急発進するのか?

 それでは、「なんらかの操作で意図せずに」Nポジションに入った状態で、ブレーキペダルを踏まず、アクセルペダルを思いきり踏みこんだ場合に、警告音/表示はあっても、シフトポジションが「N→D」に入れた場合に、実際に急加速するのか?

 プリウスに関しては以前にベストカーwebで展開しているので、ハイブリッド/EVを販売しているそのほかの日本車メーカーに以下のような質問を投げかけてみた。

■自動車メーカーへの質問状

●POWER ONの状態で停車および走行中、意図的に(あるいは操作の過多などによって意図せずに)、シフトポジションがN(ニュートラル)に入った場合において、

1/アクセルペダルを踏むと、注意喚起を促すような表示(シフトポジションなど)や警告音(ビープ音など)などが発生するか?

2/アクセルペダルから足を離さず踏みこんだ状態もしくはブレーキペダルを踏まない状態で、シフトポジションを「N」から「D」に変更できるか?

3/「2」の場合において「D」に「変更できる」とすれば、車両はどのように動き、制御されるのか?(停止、微速走行、急発進など)

 対象車種はトヨタはプリウス、日産は、リーフとノート/セレナ「e-POWER」。ホンダは「i-MMD」のインサイト/アコード/ステップワゴンスパーダ/CR-V(以上はボタン式)、i-DCDのフィット(現行)/フリードなど、2系統モデル、三菱はアウトランダーPHEVを確認した。

 まず、1を見ていくと、トヨタ、ホンダ、三菱では、ディスプレイの表示とともにビープ音などの警告音が発せられる、とのこと。

 一方、日産のe-POWER搭載車では警告表示はなく、警告音も発生しない。

リーフ、ノート&セレナのe-POWERはシフトポジションがNレンジに入っている状況で、アクセルを踏んでも表示も警告音も発生しない。また、アクセルペダルを踏み込んだまま、NからDレンジには変更可能。 ただしDレンジからNレンジに入れるのは長倒しする必要があり、意図せずにNレンジには入りにくくなっている
リーフ、ノート&セレナのe-POWERはシフトポジションがNレンジに入っている状況で、アクセルを踏んでも表示も警告音も発生しない。また、アクセルペダルを踏み込んだまま、NからDレンジには変更可能。 ただしDレンジからNレンジに入れるのは長倒しする必要があり、意図せずにNレンジには入りにくくなっている

 2の場合、プリウスが前述のように誤発進の可能性が想像されるように、日産や三菱でもシフトポジションをNからDに「変更可能」との回答を得た。

 長押しすれば変更可能という操作の手順を見ても、この3社が基本的に共通の制御を実施しているのではと想像される。

 一方で、ホンダは低速状態では「NからDへのシフト操作には、ブレーキペダルON and アクセルペダルOFFの条件が設定されています」(広報部)とされ、“N→D”へのシフトチェンジはできないとのことだ。

現行フィットの電子制御シフト。ホンダの電子制御シフトはブレーキを踏む、アクセルをオフの状態でないと、NレンジからDレンジへシフトチェンジできない
現行フィットの電子制御シフト。ホンダの電子制御シフトはブレーキを踏む、アクセルをオフの状態でないと、NレンジからDレンジへシフトチェンジできない

 そのうえで、3の「N→D」へのシフトポジション変更が可能なトヨタ/日産/三菱の車両の場合は、アクセルペダルの踏み込み量に応じて、車両は走行(発進)することになるが、ホンダは上記の“禁則”制御により、Nポジションのままなので走行できない。

 ちなみに、アクセルとブレーキの両ペダルを同時に踏んでしまった場合では、いわゆる“ブレーキオーバーライド”制御がかかるので、基本的にブレーキの作動が優先されるので急発進は起こりえない。

アウトランダーPHEVはDレンジから意図せずにNに入った場合、表示&警告音が発生。また走行中は右に一度倒した場合ではNには入らず、意図的に長倒しした場合のみ、Nに入る。アクセルペダルから足を離さず踏みこんだ状態、ブレーキペダルを踏まない状態ではシフトポジションを「N」から「D」に変更可能。ただしこの状態の場合、インフォメーションディスプレイにNに入っている旨の警告が出ている<br>
アウトランダーPHEVはDレンジから意図せずにNに入った場合、表示&警告音が発生。また走行中は右に一度倒した場合ではNには入らず、意図的に長倒しした場合のみ、Nに入る。アクセルペダルから足を離さず踏みこんだ状態、ブレーキペダルを踏まない状態ではシフトポジションを「N」から「D」に変更可能。ただしこの状態の場合、インフォメーションディスプレイにNに入っている旨の警告が出ている

 「N→D」への意図しないポジション変更については、シフトレバーの中立ポジションでの乱暴な操作もNポジションへの誤選択を生み出す要因であり、トヨタはハイブリッド車の取扱説明書に「シフトレバーは、ゆっくり確実に操作してください」と念押ししている。

 この機能に関しては、日本メーカーは2010~2011年にかけて、トヨタの米国での“急発進騒動”をきっかけに標準化を進めてきた経緯がある。

 加えておけば、ハイブリッド/EVではエンジンが停止状態にある場合が多いので、シフトポジションがNなのかDなのか認識しにくいことも、誤操作が起きやすい要因のひとつといえる。

 トヨタは決定的な誤操作といえるブレーキペダルの踏み間違いを防ぐために、ハイブリッド車に限らず“後付け”の踏み間違い防止装置を旧型モデルを含めて装着可能な車種を拡大させている。

 とはいえ、どれほど機能を進化させたとしても、人が操作する限り、完璧な「フェイルセーフ」(誤操作・誤動作による障害が発生した場合、常に安全側に制御すること)の実現はあり得ないことを頭に置いておくべきだ。

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