1990年代に爆発的ヒットを記録したカービデオコンテンツの「ベストモータリング」。筑波サーキットを舞台に、市販車を操るレーシングドライバーたちが手に汗を握るデットヒートを繰り広げ世間を騒がせた。当時ベスモに出演していた中谷明彦氏にとって、一番びびったバトルは、やはりアレだった!?
文:中谷明彦/写真:ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】メーカーを代表するスポーツカーたちによる大バトル!! ベスモで活躍したクルマたちがコレだ!!(8枚)画像ギャラリー筑波サーキットで繰り広げられた数々の名バトル
ご存知「ベストモータリング」ビデオの一番の見どころは「バトル」だ。レースと呼ばずにバトルと表現するのは、一般的なレースと明確に区別し、よりエンターテイメントを強調するという理由もある。
レギュレーションはなく、クラス分けもない。ただ、登場するキャスターが担当する車の性能を引き出しながら、競合車との性能差を見せつけるのだ。そのために予選的なタイムアタックはするけども、スタート順位はリバースグリッドとなることがほとんど。
それどころか、練習走行は無く (あってもタイヤの消耗を勘案し、メインキャスターは走らない)、当日の朝、初めて担当車両を知らされ、その車の詳細なスペックも知らないまま、いきなりスタートすることも多々ある。
FFなのか、FRなのか、4WDにもわからず、冷えたタイヤでいきなり本番のバトルスタートとなるわけだから、並のドライバーでは務まらない。
そして、選ばれしメインキャスターの共通した暗黙のルールは「手を抜かずに全開で走る」ということだった。中途半端に譲ったり、遠慮したりすると、却って危険となることを、それぞれのキャスターは経験の中で理解しているからだ。
だからこそ、こんな激しい「バトル」を毎月開催していながらも、死傷者を出すような事故、アクシデントは皆無。車両どうしがぶつかって大破するなんてことも無かったのだから素晴らしかった。
【画像ギャラリー】メーカーを代表するスポーツカーたちによる大バトル!! ベスモで活躍したクルマたちがコレだ!!(8枚)画像ギャラリー語り継がれる緊急回避テクニック
いったい何回のバトルを経験したか数えていないが、おそらく数100回のバトルを行っていたと思う。その中で、僕が一番「ビビった」バトルといえば、あれしかない。
そう、後に緊急回避テクニックを深掘りして取り上げた「死なない運転テクニック!」として、1997年にリリースされたビデオスペシャル版につながる、今や世界的にも有名なシーンとなった1996年開催の筑波バトルだ。
その日はポルシェ911(993タイプ)にガンさん(黒澤元治氏)、スカイラインGT-R(R 33型)に僕が乗り、服部尚貴氏(NSX)や大井タコ(RX-7)などとバトルした回だ。
実はこのスカイラインGT-Rはベスモ編集部スタッフの父上が新車で購入し、納車されたばかりのド新車。絶対に傷つけない、クラッシュさせないなど条件に貸し出してもらえた貴重な車両だった。
そこで担当編集者が、人格的に一番信頼のある(?)僕に担当させたのである。バトルスタート直前にも担当者が祈るような視線を送っていたのを覚えている。
しかし、GT-Rの実力は高く、優勝を争えるポジションであることは間違いない。それを立証するためには全力で走る必要があった。
バトルがスタートして、トップをひた走るガンさんポルシェに程なく追いつき、最終ラップに筑波のバックストレートで直後に付ける。
4WDのトラクションはポルシェに勝り、勇躍トップに躍り出る瞬間だった。勢いに勝るGT-Rでガンさんポルシェを当初左サイドからオーバーテイクをするつもりだったがガンさんがブロックすべく少し進路を左に寄せた。
そこで一気に右サイドから並びかけた瞬間、ガンさんポルシェが勢いよく右に進路を寄せ返してきたのだ。絶対に当てられないという使命を帯びていた僕は瞬間的に避けざるを得なかった。その勢いが強かったためコース幅が足りずダートにまで飛び出す。
ガンさんポルシェは避けたが、今後はガードレールにぶつかる危険が迫った。ダートの芝生ではグリップせず、神に祈る心持で直進させなんとか危機を回避すると、目前に筑波最終コーナーが迫っていた。
すでにブレーキングポイントは過ぎており、明らかにオーバースピード。かつ右側前後2輪はダート上で、リアからリバースするのは明らかだ。これは長年レースやサーキット走行を重ねたドライバーなら理解できる状況。
そこですかさずカウンターステアを当ててリバースステアに対処しつつ、アクセル操作で姿勢を安定させる。かつ加速させながら後続との接触を避けつつ、トップでゴールするという離れ技となったのだった。GT-Rはクラッシュすることなく、傷一つ付かなかったのは幸いだった。
ガンさんが右に動いたのはブロックが目的ではなく、トランスミッションに不調をきたしシフトアップできなくなったことから進路を譲るつもりだったと事後謝罪を受けた。
この一連の動きは全て複数の動画機材に記録され、後日編集されてベストモータリングビデオで公開されるや大反響となった。それは今でもYouTubeなどで公開され、世界中のカーファンに驚きと感動と与えているが、その時の僕は心底ビビったのは間違いない。
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