■世界一の4WDシステムを搭載するクルマ
クロカン4WDの世界ではトラクションの高さ≒性能の高さといえ、その限界点は各メーカーが共有しているといっていい。ところがオンロード4WDはトラクションだけでなく操縦性も重視されるため、駆動力と旋回性能の両立が求められる。
ところがタイヤは駆動力を強く発揮すると曲がる性能が少なくなり、曲がる性能を多く発揮すると駆動力が少なくなるという特性を持っている。
そのため駆動力を前後左右に振り分けるため、センターデフおよび前後デフが装備され、さらに進んで前後不均等トルク配分が採用されるようになった。
これをアナログ制御のシンプルなシステムで高い完成度まで高めたのがAudiのクワトロシステムだ。クワトロはアウディの4WDシステムの総称でいくつかのシステムがあるが、S8用はセンターデフに基本前後駆動配分40対60のトルセンLSDを使ったシンプルな4WDシステムだ。
このセンターデフは電子制御にたよらず、走行状態によって前後駆動配分が15対85〜60対40までの間で連続的に変化する。これにリアデフにスポーツデファレンシャルという左右駆動配分を行うデバイスを装備。その結果、素直に曲がる操縦性に加えてホイールベースが短くなったかのようなスポーツ性まで手に入れた。
リアデフに電子制御を使っているものの、これが電子制御に頼らない4WDシステムの到達点といっていいだろう。
当然、電子制御式のほうが制御プログラムの自由度が広く可能性は広いが、自然な操縦性、コントロール性という点でプログラムの難しさがあり、ほとんどの電子制御式4WDシステムはアウディのクワトロシステムを超えていない。
そんななか、電子制御式4WDシステムとしてアウディを超えたといえるのが三菱ランエボⅩに採用されたS-AWCだ。前後駆動配分50対50のセンターデフ式4WDを基本にセンターデフをACD、リアデフをAYCでコントロールし、さらに統合制御することで旋回性能とトラクション性能を高いレベルでバランス。さらにスタビリティコントロールを曲がる性能に利用したASCを組み合わせることによって、理想的な4WD制御を実現している。
(TEXT/斎藤 聡)
■世界一の4輪操舵(4WS)を搭載するクルマ
4輪操舵は1980年代の日本車でちょっとブームになったものの、継続的に開発し続けたのは日産のみ。スーパーHICASから発展した4WASがスカイライン(とフーガ)で孤軍奮闘していたが、最近は盛り上がりに欠ける状態が続いていた。
そこへ出てきたのが、レクサスGSで登場したレクサスダイナミックハンドリングと、BMW5&7シリーズに用意されるインテグレイテッドアクティブステアリングだ。
面白いのは、4WSの元祖ともいえる日産がずっと後輪操舵にこだわっていて、それを前輪の操舵制御まで拡張する経緯をたどったのに対し、BMWとトヨタは前輪のアクティブ制御をベースに、後輪操舵へ拡張していったこと。
BMWは2003年の5シリーズ(E60)で前輪ステアを可変するアクティブステアリングを導入、トヨタは’04年のマジェスタからアクティブステアリング統合制御付VDIMとして市販化している。
さらに、この両社のアプローチも見事に対照的で、BMWがよりアクティブなハンドリングを目指したのに対し、トヨタは安全サイドにクルマを制御する技術の一貫ととらえている。
で、こういう出発点も考え方も異なる3社の4輪操舵システムが、最近ようやく同じような目標地点にたどり着きつつある、というのが現在の状況だ。
イロイロやってみたけど、やっぱりクルマの運動性能の終着点にそんなに大きな違いはない。ステアリングの命ずるままストレスなくスムーズにコーナリングして、加減速や外乱などにも挙動を乱さないスタビリティを持つ……。レクサスもBMWも、最新モデルではきわめて洗練されたアクティブ4輪操舵を実現し、高い完成度を見せていると思う(4WASの元祖日産がちょっと古臭いのが残念)。
中でも、レクサスダイナミックハンドリングを高く評価するのは、日常的なドライブからタイヤのグリップ限界近くまで、操安性のキャラクターに断絶がないこと。交差点の左折時に「アレッ?」と驚くほど小舵角でアッケなく曲がれちゃう新鮮な感動が、超高速コーナーでの鬼のスタビリティとスムーズにつながっている。
BMWもすばらしいけど、個人的にはコッチにより感動しましたね。
(TEXT/鈴木直也)






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