スーパーチャージャーなど補機類の多さはコスト増大の一因
SKYACTIV-Xは、燃焼モードの切り替えや、点火タイミングのモニタリングのために筒内圧センサーを搭載している。さらにスーパーリーンバーンのために高応答エアサプライ(ルーツ式スーパーチャージャー)を搭載している。
それでも反応速度の速いピエゾ式インジェクターや可変容量型のターボチャージャー、インタークーラーといった補機類を満載しているクリーンディーゼルのSKYACTIV-Dより安いと見られていたのだ。
そもそも燃焼圧力の高いディーゼルエンジンは、シリンダーブロックやクランクシャフトなどにも剛性が要求されるため、どうしても生産コストは嵩む傾向にある。
したがって一般的にディーゼルエンジンは高い生産コストが車両価格に反映されてしまうため、燃費と燃料価格の低さから、年間走行距離が多いユーザーほどメリットが大きいパワーユニットといわれる。
それに対してSKYACTIV-Xは、ソレノイド式のインジェクターとしては高圧のマルチホールタイプで高反応なタイプを使っているが、前述の筒内圧センサーやスーパーチャージャーに加え、発進時に駆動力をアシストするマイルドハイブリッドを搭載している。
マツダがMハイブリッドと呼ぶマイルドハイブリッドはベルト駆動のISG(スターター一体型発電機)でP2タイプと呼ばれる形式。
スズキのSエネチャージと構造的にはほぼ同じで、アイドリングストップからのエンジン再始動と発進時の駆動アシスト、減速時の回生充電を行なう。
Sエネチャージと違うのは、電圧が24Vとやや高く、シフトアップ時に発電抵抗でエンジン回転数を調整して加速のつながりをスムーズにするという使い方もしている点だ。
ちなみにMハイブリッドは電源も、減速エネルギー回生システムのi-ELOOPで使っているキャパシターではなく、リチウムイオンバッテリーでも充放電の速度が速く、耐久性も高い東芝のSCiBを採用するなど、こだわりが満載のシステムである。
SKYACTIV-XだけMハイブリッドが組み合わされているのは、発進時の加速をスムーズにするためだ。
アイドリングは火花点火で、ちょっと回転数が上昇すると圧縮着火になることから、この過渡特性をスムーズにして極低速域のトルク増強のためにMハイブリッドが組み合わされているのである。
今後、SKYACTIV-Xがさらに熟成されることでエンジン特性がより柔軟になれば、Mハイブリッドを搭載しなくても乗りやすいエンジンに仕上がるハズだ。
しかし、回生充電による発信加速時の燃料節約や素早い再始動のためにもMハイブリッドは役立っているから、コストさえ許せば使い続けた方がいい部分もある。
エンジン生産時の工作精度と検査工程の手間が半端じゃない!
加えてSKYACTIV-Xの場合、エンジンの組み立て工程でも非常に手間が掛かっている。部品の加工精度がこれまでのエンジンとは段違いに追求されているのだ。
圧縮比を高めているだけでなく、各気筒のバラつきを極限までなくすことでSPCCI(火花制御式圧縮着火燃焼)を実現させているのである。
レーシングカーやチューニングカーでは、エンジンのチューニングをする際に各気筒の燃焼室容積を測定して調整するという作業がある。
量産車では設計図面通りに加工すれば、各気筒で誤差はないと思われがちだが、実際には燃焼室容積には意外とバラつきがあって、圧縮比の差も生じている。
SKYACTIV-Xはもちろん量産車であるから、レーシングエンジンと同じ工程で作業されている訳ではないが、トップカテゴリーのレーシングエンジン並みの燃焼室容積管理が施されている。
シリンダーヘッドを加工する際に工作機械の精度だけでなく、レーザー測定器を併用することで、精密な加工を実現しているのだ。
さらに組み立て後の検査工程でも、普通は一定数からの抜き取りでチェックするのに対し、SKYACTIV-Xだけは狙い通りの精度が出ているか全基チェックしているそうだ。
そのためエンジンの生産コストが、SKYACTIV-Gとは比べものにならないのは、モノづくりの現場をちょっとでも知っている人なら分かるだろう。
トヨタのダイナミックフォースエンジン(A25A型、M20A型)もレーシングエンジンのテクノロジーを注ぎ込んで、かなり追い込んだ作り込みがされているが、SKYACTIV-Xの燃焼を制御する技術と工作精度はさらにその上をいく。
日産GT-RのV6やAMGのV8、ポルシェの水平対向エンジンも組み付けの精度という点では見事なものだけれど、部品の工作精度で見ればSKYACTIV-Xがダントツに高精度なのは間違いない。それくらいSPCCIを実現するための条件作りはシビア、という見方もできるのだ。
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