2人のランエボマイスターが語る「オレにとって最高のエボ」
●僕の提言で速くなったエボV(中谷明彦)
僕のプロドライバーとしてのキャリアは三菱車とはどれも深く関わってきているけど、とりわけランエボに関しては開発からレースまで関わっていたから思い入れは強い。そのなかでどれが一番と問われれば「エボV」になるかな。それもモータースポーツベース車両となるRS。
当時GTOでグループNに参戦し、打倒GT-Rを目指していたけどレギュレーションの壁で果たせなかったから、クラス下のランエボで戦うことに方向転換していた。格下のランエボでGT-Rと戦うために何が必要かということを開発チームに加わりさまざまな提案をした。
例えば、弱点だったブレーキを強化するためにレーシングキャリパーを採用すること。サスペンションの慣性質量を軽減するためにアルミのサスペンションアームの採用。それにシャシー剛性を上げるためスポット溶接を増やし、特にサスペンション取り付け点の局所剛性を上げるために補強プレートも追加。
フレーム最後部に補強メンバーを組み付け、デフマウントは剛結にしたり前後デフにLSDを組み込んだり。ボディ外板でもボンネット、フロントフェンダーを軽量なアルミ製にすることも提案した。4ドアセダンゆえ重くなるウィンドウガラスを薄板化して軽量化することはシュニッツアーから学んだ。それらのほとんどが実際に採用されて実車となった時は感動したね。
エボVの完成車を筑波でテストした時、エボIVに比べ約3秒もタイムアップした。1分4秒3というタイムは当時としては画期的で開発チームから歓声があがったよ。レース仕様にしたらさらに速さが増し、格上のGT-Rを時折従えるなどエボVの速さは当時かなり話題になった。
ほかにも多くの提案をしたけど、予算や時間の関係で一度に盛り込むのは不可能で、年次改良で順番に取り入れていったから毎年確実に速さを増す状態がエボXまで続いた。
僕としては電子制御デフをトリプル装備することが最終目標だったからエボXでもまだ未完成だったワケ。今後さらに進化を果たせるメニューは揃っていて実現すればケタ違いに速いエボが誕生するはずだっただけに、生産終了のニュースは悲しいかぎりだった。
でも、もう僕はエボXを最後に三菱とのあらゆる契約を解消され開発に関わってない。僕の提言なくしてエボを速さで進化させることはできないと思っているからエボVからXまでの進化の過程で一定以上の役割を果たせたのは今としては誇りだよ。
●マキネン仕様こそ至高のエボ!(山内伸弥)

ランエボにはラリーの実戦と開発の両方に深く関わっていたこともあるんだけど、1台を挙げるとするのなら第2世代最後のモデルになる通称エボ6.5、エボVIトミーマキネンエディション(TME)だね。
実際にあの世代のランエボの最も速い完成形だし、開発していてそのフィードバックがきちんと結果として返ってきたのをよく覚えているんだよ。
単純にエクステリアの造形も格好よかったというのもあるよね。フロントバンパーは左右非対称で、カナード形状が空力性能を向上させ、ルックスのアクセントにもなっていた。それにやっぱりランエボで4年連続WRCドライバーズチャンピオンに輝いたT・マキネンのネーミングが入ったモデルというプレミアム感もたまらなかったね。
そもそもランエボ自体がエボIX MRまでは限定車だったけど、このエボVI TMEはそのまた特別記念限定車だったからね。
フロントのロールセンターをエボVとエボVIの中間くらいにまで下げてターマック仕様に振ってあったのもポイントだった。競技志向の強いエボVと多少ソフトな方向性に振ったエボVIとの間をとった足回りにすることで、基本はターマックなんだけどダートでも充分に戦闘力を発揮できていた。
今のエボXはエンジンが4B11ターボになって、鋳鉄より軽量高性能でトータルバランスがいいといわれるアルミブロックになったよね。でも、実はエボV~VI TMEの4G63ターボの頃からアルミブロックへの変更を開発陣には提言していてね。その提言が通っていれば、エボV~VIの頃に当時さらに速くできていたはずだと、いまだに悔やんでいるんだよね。それがちょっと心残りだよ。
(写真、内容はすべて『ベストカー』本誌掲載時のものですが、必要に応じて注釈等を加えている場合があります)

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