2025年7月、与野党6党がガソリン税に課されている「当分の間税率」を年内に廃止するとした合意文書を交わしました。廃止されれば、現在1リットルあたり53.8円課されているガソリン税が28.7円となり、2025年9月時点のレギュラーガソリンの全国平均価格171円(政府補助金10円含む)が、単純計算で139円と大幅に安くなります。
「ようやくガソリン代が安くなる」と安堵している人は少なくないと思いますが、クルマに関する税金としては、政府が「走行距離課税」を検討しているとの報道もあります。ただこの走行距離課税は、現実には技術的にも社会的にも課題が多く、そのまま導入されてしまうと生活や経済が大混乱しかねない制度です。
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【画像ギャラリー】「走行距離課税」は無理! 実現不可能だし導入すると大変なことになる理由(7枚)画像ギャラリー海外ではすでに導入事例も
「走行距離課税」とは、その名のとおり、クルマの走行距離に応じた税金を納める制度。欧米では、導入をしている国や地域もあり、オセアニアのニュージーランドでは、「道路利用車税」として、いち早く導入されました。EU諸国でも貨物車を中心に走行課金制度を導入する国が増えてきており、アメリカの一部の州でも、走行距離課税としてすでに導入されています。
日本の国会で走行距離課税が話題となったのは、2022年の10月の参議院予算委員会でのこと。国民民主党の浜口誠議員による「地方の自動車ユーザーにとってクルマは生活必需品であり、さらに負担を強いるような走行距離課税というものは導入すべきではない」との質問に対し、当時の鈴木俊一財務相が「電気自動車が普及していくなか、ガソリン車よりも重く、道路損壊に与える影響が大きい電気自動車に、走行段階での課税がされていないことを考慮すれば、負担の在り方を見直す必要がある」と答弁したのです。
ただ、その後の衆議院予算委員会で岸田文雄首相(当時)は「政府として具体的な検討をしていることはない」と答弁、直近でも、石破茂首相が2024年12月の参議院本会議で「政府として具体的に検討を行っているわけではございません」としています。
ガソリンの暫定税率廃止の動きがあるなかですので、財源確保のために政府が動くのでは、という見方があるようですが、現時点決まっていることはなにもないばかりか、検討しているかどうかも憶測にすぎません。

地方経済や物流への影響が大きい
という状況ではありますが、もし走行距離課税が導入されるとどうなるのか。導入にあたっては、第一に、課税標準となる走行距離をどう正確に把握するかが大きな課題となります。オドメーターを確認する方式では、不正防止に限界がありますし、GPSや車載通信で管理する方法では、プライバシー侵害への懸念があります。
海外では、プライバシーへの対応として、位置情報を把握しない非GPS方式を選択することも可能となっているなど、クルマの所有者が走行距離報告方法を選択できるほか、取得する情報の種類を必要最小限するなどで対策をしているようですが、セキュリティ対策や情報管理体制の構築などが必須となるなど、技術的に乗り越えなければならない課題は多く、課税の方法としても、走行した距離に対して単純に課税をしてしまうと、都市部よりも通勤や買い物などで日々長距離を走らざるを得ない地方の人々にとって大きな打撃となりますし、物流や観光への打撃も懸念されます。
都市部と地方部ではクルマの使い道に大きな違いがあり、端的に言えば公共交通機関が行き届いていない地方にとって自家用車は通勤の足であり生活必需品であって、走行距離も伸びがち。そういう状況を放置したまま走行距離税を導入すると、地域格差が深刻なレベルまで広がることになります。
たとえば、保有段階の課税(自動車税・軽自動車税)とのバランスを見直すなど、導入にあたっては自動車関連諸税全体での再設計が必要でしょう。現在ガソリンに課せられている各種の税金の廃止が行われるのであれば、燃料課税から走行距離課税に切り替えられることが、ユーザーの燃費に対する意識を低下させないかについても、考慮する必要があると考えます。









コメント
コメントの使い方なんだかんだ今の自動車関連税にこの走行距離税が上乗せされるにだけの情けない結末に100ペソ
こういった、不可能なことを選択肢にのせない、というのは本当に大切な姿勢です。
発言力あるSNSだけじゃなく政治家や新聞ですらこの不利益発生装置を振りかざしてる輩が多いので、騙されない事も本当に大切。