ガソリン価格は原油価格の変動に影響を受ける
1円の価格差でも気になるものの、ガソリン価格がどうして上下動するのか、疑問に思っている読者もいるだろう。また、ガソリン価格は、日本国内のガソリン需要によって上下すると思っている人もいるかもしれない。
新型コロナウイルスの感染防止のためにマスクが品切れになり、高額で転売されるなどの行為が問題視されているが、このようにモノの値段は原価や販売コストなどにより、需要と供給のバランスで決まることが多い。
ガソリン価格もそんな原則に則って価格が変動しているのだが、国内事情による価格変動はほとんどない。
ガソリン価格が上昇して、スタンドにクルマが殺到していることなど見たことがないだろう(東日本大震災後に給油待ちのクルマが長蛇の列で並ぶ光景が見られたが)。
むしろ価格が上昇する局面では、ガソリンスタンドは閑散としていることの方が多い。値上げ前の駆け込み需要や災害時の供給制限など、特別な要因がなければガソリンスタンドに車列は発生しないものだ。
そもそも一昨年秋から中国の景気減速があって、世界の石油消費量が伸び悩み、原油価格は徐々に下降していた。
そこへきて今回のコロナショックだ。
原油価格は(ガソリンの市況価格と同様)2018年10月が1バレル(159L)あたり70ドルをつけていて直近のピークとなっていたが、その後、同年の年末に50ドルを切るくらいまでいったん落ち込んで、緩やかに回復、2020年1月は60ドル前後の価格で推移していた。
ところがこのコロナショックで原油価格はみるみる急降下、2020年3月には1バレル20ドル前後と、この2ヵ月で3分の1(!)にまで値下がりしてしまった。この原油価格の上下動にガソリン価格も直接、影響を受ける。
ちなみに報道などでよく耳にするからご存知の方も多いだろうが、ニューヨークの先物取引き市場での原油価格が、石油の相場の動向として良く取り上げられている。
先物市場は6ヵ月後や1年後といった未来の購入価格の権利を売り買いするもので、先物市場で決まる価格が基準となって現物も取引きされるのだ。
原油価格の国際的な指標となるのは、まず欧州のブレント原油価格、アメリカのWTI原油、アジアはドバイ原油価格となっていて、これが三大指標と言われている。
翌々月に引き渡される購入価格を指標として使うのが一般的だ。ニューヨークで取り引きされるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油とはアメリカ合衆国南部のテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称で、硫黄分が少なくガソリンを多く取り出せる高品質な軽質油のこと。
実はWTI原油は、アメリカ国内で産出される原油の6%、世界で産出される原油の1~2%にしか過ぎないのだが、良質な原油ということもあって、指標となっているのだ。
原油価格を制御しようとする政治的な動きもある
原油価格の推移に話を戻すと、コロナショック当初は米国などが原油価格を維持するために石油の備蓄量を増やすなどして買い増しして価格を維持しようと買い支えた。
ところが、その程度のことで相場が安定するほど、今回のコロナショックは、小さな規模の経済危機ではなかったのである。
どうして米国は原油価格を買い支えしようとしたかというと、それはシェールオイル関連企業の業績を支えるためだ。
シェールオイル関連企業は、岩盤層の下にあるオイルやガスを取り出すために結構なコストがかかる。
そのため、ある程度の原油価格で買い取ってもらえないと採算が取れないのだ。事実、2020年4月1日にはシェールオイル企業の1社が破産宣告をしている。
中東や南米などの産油国で構成されるOPEC(石油輸出国機構)の動向が、原油価格に大きな影響を与える。
OPECは、そもそも減産には反対の立場だ。シェールオイルと比べ、産油コストが安い従来の石油産出国は、需要がある限り原油を汲み出して売りさばきたいのである。
中東の産油国の王族にとっては、少々の価格低下など、さしたる問題ではないのだろう。
それよりも世界中の原油市場への影響力をどれだけ握っているかということの方が大事なのだ。市場で実権を握っていれば、価格など後からどうにでもなると思っているようだ。
さて、少々話が込み入ってきたが、WTI指標はガソリン価格の行く末を占う数値であるのは間違いない。
さらに日本の場合、株式市場同様に為替の影響も大きく受ける。つまり、ガソリンの価格は原油価格と為替で決まると言っても過言ではないのである。
このまま新型コロナウイルスの感染拡大で世界的に経済が減速し、原油の需要が落ち込んでいくのは目に見えている。
さらにOPECとロシアなどの産油国が原油の減産に合意していない状況が続いていけばリーマンショック以来(2009年1月106円)の安値になるだろう。
ちなみに総務省統計局が発表した1966年から2019年までのレギュラーガソリン東京地区小売価格の推移を見ると、近年で最も安いのは1999年5月に記録した1Lあたり97円。
当時はOPEC(石油輸出国機構)が増産、その一方でアジア通貨危機が発生し、経済が低迷したおかげで需要と供給のバランスが崩れ、瞬間風速的に過去40年(1979~2019年)で一番下がった。
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