免許証返納件数が過去最多に 高齢化で直面する「運転」問題とリスクと活路

■自主返納は賢明な判断 返納後の不自由を取り除く方策が必要

 団塊世代の人達が日本のクルマを盛り上げ、日本の自動車メーカーを世界有数の優良企業に育て上げた。同時に若いクルマ好きの道しるべにもなった。その人達が今、運転免許を自主返納しようとしている。

 それを止めるのは無責任だ。高齢になって交通事故の加害者になれば、当然に被害者が傷つき、ドライバー本人も辛い立場に立たされる。自主返納は賢明なご判断で「長い間クルマの世界を盛り上げていただき、ありがとうございました」と申し上げたい。運転免許の返納は、警察署や運転免許センターなどで行える。前述の運転経歴証明書が発行され、本人確認のための書類として使える。

※編集部注:免許返納には、基本的には有効期限内の運転免許証があれば手続きを行うことができる。地域によっては印鑑を求められることもあるので、訪れる際には印鑑も準備もしておきたい。運転経歴証明書の申請をする場合は以下が必要になる。[1]返納する運転免許証 [2]印鑑 [3]交付手数料 1100円 [4]申請用写真(運転免許センターの場合は不要)

自主返納以外にも、家族が心配して返納させるケースも多い。家族で高齢の親を説得できない場合は、近くの警察署や各都道府県が設置する「運転適性相談窓口」に相談することもできる

 しかし、運転免許を返納する気持ちに甘えてはいけない。高齢者に運転免許を返納させたのでは、クルマはその使命を果たしたことにならないからだ。若い時には、自宅に通じる坂道を徒歩で登っても苦にならない。それが高齢になり、本当にクルマが必要になった時に、「そろそろ運転免許を返納しませんか?」などと言われる。どう考えても矛盾している。

 そうなると、高齢になって運転免許を返納してもらったなら、それに代わる移動手段を確保しなければならない。日常的な通院や買い物など、不便を感じないで行えるための支援が不可欠だ。

 本人が健康で、公共の交通機関が整った地域に住んでいるなら、運転免許を返納してもシルバーパスなどを使って自由に移動できる。ところが、日本には公共交通機関の未発達な地域も多い。運転免許を返納したくても、それができず、自分の運転技量に不安を感じながらクルマを使っている高齢者はとても多い。そこの支援をせずに「そろそろ運転免許を返納しませんか?」と申し上げるのは、それこそ無責任だ。

 運転免許の返納を促すなら、公共交通機関の充実が求められる。バスなどの本数を増やすだけでなく、走行ルートの見直しも必要だ。坂道を登り降りする必要がなく、なおかつ安全を確保できる場所まで公共交通機関を通さないと、クルマを使っている時と同様の利便性は得られない。

■運転せざるを得ない場合はトレーニングや対策が必須

 そうなると、運転免許を返納させず「いつまでも安全に運転を続けられる配慮」も必要になる。高齢になる前から、定期的に運転のトレーニングをして、運転技量を落とさないような工夫だ。

 AT車は、変速操作をクルマが行うことでドライバーの負担を減らし、安全性を高める効果があるが、同時に危険性も併せ持つ。Dレンジに入れてアクセルペダルを深く踏めば、急発進事故を発生させてしまう。そこで衝突被害軽減ブレーキを含めて、「ユーザーを交通事故の加害者にさせないクルマ造り」が大切になる。

 また、AT車ではないドライバーが変速操作を行うマニュアルトランスミッション車は、デリケートにクラッチを操作しないと急発進もできない。構造上、運転ミスを発生させにくい造りになっている。

JAFでは高齢者を対象にした、マイカーを使った実技講習会『シニアドライバーズスクール』を定期的に開催。先進安全装備の実体験や、信号合図による急ブレーキなど普段体験できないトレーニングも行われる。地域の教習所でもシニア向けトレーニングがあるので利用するのも手だ

 マツダなどによると、変速操作を行うことが、老化の防止になる可能性も高いという。中高年齢に達したら、クルマの運転を長く楽しみ、その利便性を失わないために、マニュアルトランスミッション車に乗るのもいいだろう。このメリットを理論的に確立させて、事故防止の観点からマニュアルトランスミッション車の推奨に繋げる対策もある。

 税金などの改訂も重要だ。高齢者から多額の税金を巻き上げる古い車両の増税は即刻廃止して、むしろ優遇することも考えたい。

 最も大切なのは安全の確保だから、自主返納する判断は尊重すべきだが、それによって高齢者に悲しい、辛い思いをさせてはならない。そして誰でも高齢になるから、自分のこととして考えたい。

【画像ギャラリー】免許証返納の対象となる団塊の世代が憧れた当時のクルマたち

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