日産は2020年5月18日、東京消防庁池袋消防署へ納車した日本初のゼロ・エミッション(EV)救急車が、同署のデイタイム救急隊で運用開始されたと発表した。
ちなみに、あまり聞きなれない「デイタイム救急隊」だが、隊員の勤務時間を平日の日勤時間帯のみに限定した隊で、男女問わず育休明けで職場復帰した隊員を主な対象としている。増加傾向にある救急出動に対応する、人材の確保を図るために2020年5月17日に発足された。
そんなデイタイム救急隊で稼働が始まった日本初のEV救急車だが、どのようなクルマなのか? 今後医療現場にEV救急車は増えるのか? 国沢光宏氏が解説していく。
文:国沢光宏/写真:NISSAN
ベストカー2020年6月10日号
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■運用が開始された日本初のEV救急車その詳細と可能性
東京消防庁が電気で走る救急車を導入した。はたしてEV救急車はどんなメリットあるのだろうか? 詳しい紹介に入る前に救急車の種別から考えてみたい。
まず現在東京消防庁などで使われている主力救急車は「パラメディック」と呼ばれており、さまざまな救命機能を持たせた救急車である。NV350キャラバンやハイエースをベースにしており、AEDや人工呼吸器など装備。最新モデルは1.6kWhの大容量リチイムイオン電池を搭載し、大型の医療機器を稼働させられる。
そのうえに「高規格救急車」と呼ばれる『動くICU』のようなフル装備の救急車が存在します。新型コロナで話題になった人工肺「エクモ」も搭載可能。キャビンは陰圧室になっており、新型コロナのような感染症患者だって対応できる。
また、体重のある要救護者に備え、ストレッチャーを電動で収納するシステムなども付く。実際、女性隊員だと体重の重い人を救急車に乗せることが難しい。もう少しハッキリ書くと、女性隊員を起用しようとすればもうひとり必要なケースも出てくる。
高規格救急車はトラックがベース車両なので、パラメディックなどよりひと回り大きい。パラメディックがハイエースやNV350キャラバンンのスーパーロング&ワイドと同じ全長5350×全幅1900mm程度なのに対し、6000×2100mm程度。狭い道路だと使いにくいかもしれません。価格は特別な装備なしで、パラメディックが1500万円。高規格救急車だと装備内容によるが、4000万円くらいするケースもある。
文頭に戻る。今回東京消防庁が導入したEV救急車、ベースになったのは「ルノー マスターZ.E.」という商用バンだ。少しややこしいけれど、マスターというクルマ、左側通行のイギリスでは日産に右ハンドル仕様をOEM供給しており「NV400」として売られてます。今回の車両、NV400顔のマスターZ.E.だと思えばいい。ボディサイズはパラメディックと高規格救急車の中間で、全長5548×全幅2070mm。東京だと少しばかり大きい。
価格は8100万円。パラメディックがベース車両の4〜5倍することを考えれば、救急車として妥当な金額なのかもしれないが、それなら高規格救急車を2台導入したほうが役に立つ。結果的に新型コロナで大活躍できたと思う。
なぜEV救急車なのか? ふたつ理由を考えられます。ひとつは東京オリンピックでの宣伝材料だ。環境立国というイメージを作りたいということなんだと思う。燃料電池車や自動運転車と同じく、救急車も排気ガス出さないEVで揃えたい、ということ。
ふたつ目が女性隊員の起用だ。東京消防庁は「デイタイム救急隊」という平日の日中だけ稼働するチームを運用しており、子育て中の女性隊員など起用している。EV救急車は高規格救急車じゃないものの、電動昇降式のストレッチャーを装備しており、女性隊員でも東京オリンピックなどで来日した大柄な外国人にも対応できる。
平日の日中だけなら、航続距離の短いEVでも充分運用できるだろう。以上、大雑把にいえば日本の宣伝素材ということになる。
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