近年SUVが大人気だが、根強い人気を誇るのがミニバンだ。しかし、そのなかで、ある変化が起きている。それは、ヒンジドアタイプのミニバンがどんどん姿を消していることだ。
かつては、トヨタ「ウィッシュ」やホンダ「初代オデッセイ」といった人気車がヒンジドアタイプであったが、今や生産終了やスライドドアタイプに変更されている。
なぜここまでヒンジドアタイプのミニバンは厳しい状況に追い込まれてしまったのか? 自動車評論家の岡本幸一郎氏が、そんなクルマたちの状況を分析する。
文/岡本幸一郎
写真/編集部、HONDA、TOYOTA
【画像ギャラリー】かつては人気車だった! ヒンジドアを採用していたモデルたち
■かつては数多くあったのに… 生産中止が相次ぐ2BOX型
ミニバンブームが最盛期を迎えた2000年代には、現在主流のセミキャブオーバータイプの『箱型』はもちろん、車高の低い『2BOX型』もやがてこれほど衰退するとは思えないほど数多くの車種があったのを読者諸氏も覚えていることだろう。
各メーカーがさまざまなミニバンをラインアップしていたなかでも、その急先鋒だったトヨタは、「エスティマ」に「アルファード/ヴェルファイア」「ヴォクシー/ノア」「ウィッシュ」「イプサム」「マークXジオ」に加えて、ボトムには「シエンタ」を据えた。
ホンダも「オデッセイ」「ステップワゴン」「ストリーム」に「エリシオン」「モビリオ~フリード」を、日産も「セレナ」「エルグランド」「プレサージュ」「ラフェスタ」を揃え、マツダも「MPV」と「プレマシー」に「ビアンテ」を加え、三菱は「デリカ」と「グランディス」、少し遅れてスバルは「エクシーガ」を送り出すなどした。
ところが、当初はそれほどかけ離れていなかった箱型と2BOX型の販売比率が、時間がたつにつれて箱型のほうが圧倒的に売れるようになり、2BOX型の多くが徐々にひっそりと姿を消していった。いまや最後の砦である「現行プリウスα」や「ジェイド」の生産中止も報じられている。
■日本の特殊な駐車場事情がスライドドアに勢いをもたらした
かつてミニバンの人気が高まり始めた頃は、ワゴンの延長上で、いざというときのために2BOX型のミニバンを買い求めた人も多かった。そのなかには、いわゆる『ワンボックス』に対してアレルギーを感じていた人も少なくなく、ドアについても商用車然としたスライドドアよりも乗用車らしいヒンジドアを好む声も小さくなかった。
ところが、ミニバンを買い求める層が求めるのは根本的に利便性であることには違いなく、3列シートがあれば便利だと思って2BOX型のミニバンを買ってはみたものの、思ったほど便利でないことに気がついた人も少なくなかった。
また、時間の経過とともにそうしたワンボックスやスライドドアに対するネガティブなイメージも薄れて、やはり便利さでは圧倒的に箱型が上というイメージが定着した。
箱型ミニバンが人気を獲得したのは車内の広さはもちろんだが、スライドドアによるところが大きい。2BOX型のなかにも一部にスライドドアを採用していた車種がいくつかあり、それを理由に購入を決めたという声は多かったという。それぐらい日本ではスライドドアが好まれるわけだが、実際にも日本で使うにはスライドドアの利点は多い。
それは、まだいたるところに狭い駐車場が存在するからだ。加えて最近は乗用車のサイズがどんどん大きくなり、ただでさえ狭い駐車場で、隣りのクルマまでの距離に余裕がなくなっている。日本のいまの環境がユーザーにスライドドアを選ばせているといえる。
スライドドアのほうが後席の乗員がラクに乗り降りできるし、ちょっとした荷物を後席に載せられるのはいうまでもない。ドアの開閉を電動でできるというのも重宝する。さらに、子育て層にとっては、ドア開口部が広く取れるおかげで、後席に装着したチャイルドシートに子供を載せたり降ろしたりしやすい。
デメリットとしては、ヒンジドアよりも開閉に時間を要することが挙げられるが、多くのメリットに比べると微々たるものであり、それを理由に選ばないという話にはならない。
一方で、3列シート車が欲しいが3列目の使用頻度がそれほど高くなく、スライドドアにこだわらないという人は、近年魅力的な選択肢の充実してきた3列シートSUVを選びそう。かくして2BOX型のミニバンは、あまり目が向けられなくなったというのが現状だ。
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