5年前の第44回東京モーターショーで、マツダは、RX-VISIONという、次世代ロータリーエンジンを搭載する後輪駆動のスポーツカーコンセプトを出展した。
自動車媒体を中心に、「2003年に途絶えたロータリースポーツカー、RX-7復活か!?」と、沸き立った。
だが、私はあり得ないだろうと思ったし、次世代エンジン技術で本質を極めるSKYACTIVを推進するマツダの姿勢をいぶかった。その理由を、これから話してゆこう。
文:御堀直嗣、写真:マツダ、日産、ポルシェ
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ロータリーエンジンとはなにか?
まず、ロータリーエンジンとはどのような長所と短所を持つのかを知る必要がある。
マツダが量産してきたロータリーエンジンは、ヴァンケル型と呼ばれる方式だ。これを最初に開発したのは、ドイツ人のフェリックス・ヴァンケルである。そしてドイツのNSU(現アウディの前身)が実用化した。1953年に、ヴァンケルスパイダーとして生産された。
エンジンの機構は、繭型の外筒(ハウジング)の内側を、三角形をした回転体(ローター)が回り、ハウジングとローターの隙間にできる燃焼室でガソリンを燃やし、回転力を生み出す。
利点は、ローターの回転で燃焼室部分が連続的にガソリンを燃焼できるので、現在我々が知るレシプロエンジン(シリンダーの中をピストンが上下する)でいえば、2ストロークのように燃焼を続けられるため、より大きな力を出せる。
そのため、小型化できる。4ストロークエンジンは、ピストンの往復で1回休みが入る(燃焼の次は排気するため、燃焼を行えない)。
ロータリーエンジンは、2つのハウジング/ローターで、4ストロークエンジンの4気筒並みの燃焼を得られるため、小さく収まるのだ。
また、ピストンのような往復運動がなく、回転体だけで構成されるので、機構の違いからも小型化できる。
マツダが、1967年にロータリーエンジンを搭載する最初の車種としてコスモスポーツという2人乗りスポーツカーを選んだのも、小さなエンジンで大きな馬力を出せることを最大に活かしたからだ。それがのちの、RX-7やRX-8へつながる。
いっぽうで、マツダはその弱点に苦しんだ。ハウジングの中をローターが回転し続ける機構に耐久信頼性を与えるまでの苦闘は有名だが、その後の燃費問題でも苦労をしている。
ロータリーエンジンは、機構を解説したように、ハウジングの中をローターが回転する。それによってつくられる燃焼室は、長方形をしている。一般的なレシプロエンジンの燃焼室は、丸形だ。
燃費を向上させるためには、使ったガソリンを残さず燃やし尽くすことが肝心で、現在のエンジン技術はその一点に集約されているとさえいえる。また排出ガス浄化においても、燃え残りのガソリンが排気されることはよくない。
燃焼室へ送り込まれたガソリンを燃やし尽くすには、燃焼室の頂点にある点火栓(プラグ)の火花で、燃焼室の隅々まで素早く均等に火炎が伝播していく必要があり、丸い燃焼室なら均等に燃え広がる。
ところが、長方形の燃焼室では、火炎が早く行き着く側と、なかなか行き着かない側とができ、燃え切らないガソリンが排気される可能性が出る。だから、燃費が悪い。
またレシプロエンジンでは、圧縮比を高めることで効率を高めているが、ロータリーエンジンはハウジングの内側をローターが回転する機構なので、圧縮比には制約がある。
いっぽう、排出ガス浄化では、ローターの回転によって燃焼室が移動するので、燃焼温度が高くなりすぎず、窒素酸化物(NOx)の排出が少ないのが特徴であり、1970年代の初期の排出ガス規制において、他の一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)を酸化する酸化触媒を取り付ければ解決でき、72年にはルーチェで排出ガス規制を達成している。
排出ガス規制ではホンダのCVCC(複合渦流調整燃焼方式)が有名だが、ほぼ同時期に、マツダもロータリーエンジンの特徴を活かして乗り越えた時期があったのだ。そして、トヨタも日産も、またホンダもロータリーエンジンを研究していた。
しかしながら、燃焼室形状がよくなく、圧縮比を上げにくい弱点は、マツダがエンジン技術として推し進めるSKYACTIVの原理原則には適合しえない。
したがって私は、RX-VISIONの登場をいぶかったのである。そして実現はないと考えた。それでもマツダは、「ロータリーエンジンの開発は続けている」と、その際に語っている。
それはなぜなのか。ロータリーエンジン搭載車がやはり生まれるのか?
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