各メーカーが編み出した、様々な緩衝構造
この基準に対応するため、自動車メーカー各社はボンネット周りの設計やエンジンルーム内の部品配置を工夫してきた。単純にボンネットの位置を高くするだけでなく、衝撃を受けた際にボンネット自体が変形して力を吸収する構造や、内部に空間を確保しやすい素材の採用など、各社が独自の工夫を凝らしている。たとえばマツダは2003年発売の「RX-8」において、衝撃時に潰れて衝撃を緩和する「ショックコーンアルミボンネット」という新しい構造を採用し、話題を集めた。
この基準がもたらした副作用として語られることが多いのが、デザイン上の制約だ。かつてのスポーツカーが理想としてきた「低く、長く、幅広い」プロポーションのうち、「低く」の部分、特にノーズの薄さを実現することが以前より難しくなっている。ボンネットの下に一定の緩衝空間を確保しなければならない以上、ノーズを極端に低く抑えたデザインは、構造的な制約に直面しやすい。
この点について、大きなヘッドライトやフロントグリルによる押し出し感の強いデザインが増えた背景には、歩行者保護基準への対応というエクスキューズだけでなく、ブランドの個性を強調したいという営業戦略上の思惑も重なっているのではないか、という指摘も存在する。実際のところ、安全基準への対応とデザイン面での差別化という2つの要素が絡み合って、現在の「顔が分厚い」クルマたちが生まれていると見るのが実態に近いだろう。
見た目の変化の裏には、確かな安全への配慮がある
ボンネットが高くなったという見た目の変化は、一見するとデザインの流行り廃りのように見えるかもしれない。しかしその裏側には、歩行者事故で命を落とす人を一人でも減らそうという、明確な安全上の狙いが存在している。年々厳格化される試験基準や、フロントガラスまで対象範囲を広げた最近の改定を見ても、この分野への取り組みが今後も続いていくことは間違いない。
低く構えたスポーティなノーズに憧れを持つファンにとっては物足りない変化かもしれないが、街を歩くすべての人の安全を守るための進化として、このボンネットの厚みを見つめ直してみるのも悪くないだろう。
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