昨今のSUV人気は日本を含め世界的なものとなっている。日本ではミニバンもSUVと並ぶクルマの大きな柱となっており、メーカーもミニバンに注力しているのに対し、海外で日本のミニバンが人気になっているという話はほとんど聞かない。
国内の販売台数で上位を占めている、トヨタ ミニバンの国内と海外の販売状況(2019年1月~12月)をまとめてみた。こう見ると、国内市場での人気に対して海外市場ではあまり伸びていないことがわかる。

そこで当記事では日本のミニバンが海外で人気にならない理由を、地域ごとのミニバンに対する捉え方を交えながら考察してみた。
文/永田恵一
写真/Citroën、MERCEDES_BENZ、BMW、TOYOTA、HONDA、CHRYSLER、KIA、MITSUBISHI、SUZUKI、LEXUS、BUICK
【画像ギャラリー】日本ミニバンとは違ってスライドドア率低し!? 海外で販売されているミニバンたち
■ヨーロッパ
ヨーロッパは「ベンツが一般的な範囲で最もブランドイメージが高いクルマ、BMWとアウディがベンツの下、VWが大衆車のなかでも上」といった具合に、クルマに対し階級的な捉え方をされやすいのに加え、クルマのジャンルも周りがオーナーをイメージする大きな要素となっている。そこにアベレージスピードの高さもあり、ヨーロッパのミニバンは大きく以下の3つのジャンルに分かれる。
[1]商用車の延長線で3列シートとし、ガシガシ使うシトロエン「ベルランゴ」の3列7人乗り
[2]ミニバス的ミニバン メルセデス・ベンツ「Vクラス」
[3]乗用車の延長線上で仕立てたミニバン BMW「2シリーズ グランツアラー」、シトロエン「グランドC4スペースツアラー」、VW「トゥーラン」、VW「シャラン」




つまり[1]と[2]は目的が明確だが、それ以外は「パーソナルなイメージに欠けるミニバンは極力乗りたくない」というのが本音のようで、ヨーロッパ車のミニバンは[3]に属するものがほとんどだ。
[3]のミニバンは「主に2列目までをユッタリと使う」という使い方が中心になるため、3列目は日本のミニバンのようにそれほど重視されず、「イザというときには使える」という考え方となっている。
そのため[3]のミニバンなら3列シートのSUVでもそれほど変わりなく、ヨーロッパで日本的なミニバンが受け入れられないのもよくわかる。
■アメリカ
「フルサイズと呼ばれる巨大なバンは広大なアメリカでも使いにくい」という理由で、乗用車をベースにフルサイズバンを小さくした3列シートのミニバンが生まれた国だけに、アメリカはミニバンの歴史が40年近くあり、ミニバン文化は定着したものとなっている。
アメリカで販売されるミニバンはトヨタ「シエナ」、日本とは別のホンダ「オデッセイ」、クライスラー「ボイジャー」、起亜「セドナ」といった全長5mオーバー、全幅1.9m超え、全高は1700mm前後という日本的なミニバンとはだいぶサイズが違うものが主流で、サイズの違いだけで日本的なミニバンが受け入れられるとは思えない。




またアメリカでミニバンは交代で「子供の送り迎えをする」、「コストコのようなところで日用品をドッサリまとめ買いする」というアメリカの日常に大変マッチしたジャンルなのは事実だ。
しかし、その反動でヨーロッパほどではないにせよ「所帯じみたクルマ」というマイナスのイメージが強まっているのも否めず、アメリカでも3列シートを持つSUVの勢力は強まっている。
■東南アジア
東南アジアで日本のミニバンは、インドネシアでトヨタ「アルファード/ヴェルファイア」「シエンタ」「ヴォクシー」、日産「セレナ」、ホンダ「オデッセイ」。タイで、トヨタ「シエンタ」「グランエース」が販売されており、意外にラインナップは多い。
しかし、現地生産で価格競争力があるシエンタとグランエースは好調のようだが、それ以外は現在日本からの輸出なので関税が課せられ、価格が日本の倍近くすることもあり、「今後に期待」という状況になっているようだ。
むしろ東南アジアにおける3列シート車は、日本車だとミニバンよりも現地生産される三菱「エキスパンダー」やスズキ「エルティガ」といった乗用車寄りのミニバン、ホンダ「BR-V」やスズキ「XL7」といったSUVの3列シートが中心だ。この種のクルマは難しいところもあるにせよ、低価格であれば日本での人気も期待できそうなジャンルとなっている。




■中国
中国で販売されるミニバンは大きくふたつのジャンルに分かれる。ひとつは「アルファード/ヴェルファイア」のような日本のラージミニバンに近いもので、具体的な車名としては「アルファード」、レクサス「LM」、ホンダ「オデッセイ」、ビュイック「GL8」といったものがあり、このジャンルには中国メーカーも参入している。
このジャンルのミニバンは、一般向けより日本でいえばかつての「クラウン マジェスタ」のような主に法人向けの高級移動車と使われることが多く、ステータスは高まりつつあるようだ。


もうひとつは、先々代と先代の「オデッセイ」やスバル「エクシーガ」のようなステーションワゴン寄りのミニバンで、こちらは主に中国メーカーのモデルとなっている。
中国では、2015年に人口抑制のための一人っ子政策が廃止になったため再び大家族が増える可能性があり、ミニバンは今後成長が期待できるジャンルになりそうだ。
■コロナ禍で海外市場でも見直される可能性を秘めたミニバン
日本のミニバンは世界的に見ると、地域によるクルマの使われ方の違いもあり今のところ軽自動車同様の日本独自のものという傾向は強い。しかし筆者はこれからミニバンだけでなくSUVも含めた3列シート車は世界的に需要が大きく増える可能性があると感じている。
それは今後当面の間、コロナウィルスと付き合っていかなければならないからだ。コロナウィルス感染防止を考えると公共交通機関を避けたクルマでの移動は世界的に増えるだろう。その際に3列シート車は便利なのに加え、ソーシャルディスタンス確保のため「3列シート車の1列に1人」といったひとり当たりのスペースを増やした使い方をするという人も増えるかもしれない。
そういった需要が増えた時に、前述したようにヨーロッパとアメリカは変わらないとしても、東南アジアと中国では現在の日本のように「アルファード/ヴェルファイアは高級車としても使える」、「日本の5ナンバーは取り回しがしやすい割に広い」という美点が注目されることは十分考えられる。
そうなれば将来的には日本のミニバンが現地生産されるようになり、アジア諸国で市民権を得るというのは決してない話ではないのではないだろうか。