国内におけるメルセデス・ベンツ販売の好調が続いている。新型コロナウィルスの影響を受けた今年1月からの販売動向において、日本自動車輸入組合(JAIA)の車名別輸入車新規登録台数の統計によれば1位を堅持しており、なおかつ輸入車における占有率で18%を超えている。7月の単月では占有率が22.18%で、2位のBMWを10ポイントほど上回るのだ。
日本におけるドイツ車人気は永年変わらず、上位3銘柄(メルセデス・ベンツ/BMW/フォルクスワーゲン)がドイツ車で、40%を超える。なかでも、メルセデス・ベンツが飛びぬけて人気を呼んでいるのはなぜだろうか?
文/御堀直嗣
写真/Mercedes-Benz、BMW、VW、Audi
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■小型車から高級車までを高水準で生み出すメルセデス・ベンツ
メルセデス・ベンツは、ドイツ車の中でも伝統的に高級車をつくり続けてきた自動車メーカーだ。BMWは、航空機エンジンメーカーを発端に、高性能エンジンを背景にした走行性能の高さを特徴とする。「駆けぬける歓び」という企業メッセージは、それを象徴する。
フォルクスワーゲンは、戦後に「タイプ1(ビートル)」で本格操業し、後継のゴルフに見られるように、大衆の実用車を主力としてきた経緯がある。そのように、かつてはドイツ車同士がそれぞれ持ち味を活かした車種を開発・製造し、販売してきた。
しかし、メルセデス・ベンツが「190」という小型車を1982年に登場させ、それがのちの「Cクラス」となるわけだが、BMWが得意としてきた小型4ドアセダンの「3シリーズ」に挑むような車種追加を行った。さらに1997年には、「Aクラス」というもっとも小型のハッチバック車を開発し、販売した。
翌1998年には、スイスの時計メーカーであるスウォッチと共同で、2人乗りの超小型車「スマート」を生み出している。このうちAクラスでは、独特な二重の床構造を編み出し、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の研究・開発をはじめた。スマートでもEVを開発し、未来の交通社会を模索する行動をしたのである。
メルセデス・ベンツの小型車開発は、単に販売車種を増やすだけでなく、未来の交通社会を模索する意味もあったはずだ。未来の話はともかくも、それまで高級車として知られてきたメルセデス・ベンツが、小型車にまで進出したことに、ほかのドイツメーカーは驚いたことだろう。
BMWも、小型車だけでなく1977年には最上級車種の「7シリーズ」を誕生させている。その2代目では、ドイツ車として戦後初のV型12気筒エンジンを搭載し、V12エンジンを使った水素エンジン車の開発を2000年代の4代目で行っている。
フォルクスワーゲンは、ゴルフよりひとつ上の車格となる「パサート」を1973年に発売し、今日に至る。
BMWもVWも、メルセデス・ベンツとは逆に比較的小柄な車種から上級車種へ、取り扱いの幅を広げている。しかしその上級車種は、メルセデス・ベンツの域になかなか到達できずにいる。
ここまで触れてこなかったアウディも、VWグループのなかではプレミアムな位置づけだが、そもそも技術の優位性で特徴づけてきたメーカーであるだけに、上級の「A8」においても、メルセデス・ベンツ「Sクラス」のような落ち着きと上質さを併せ持つ乗り味は出せていない。
それぞれに個性を持って歴史を積み上げてきたドイツの各自動車メーカーだが、小型車から高級車まですべての車種において、高い水準で完成度を消費者に実感させるクルマづくりでは、メルセデス・ベンツを超えられていないのが現状ではないか。
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