近年、軽自動車は200万円することが珍しくなくなっている。むしろコンパクトカーのほうが安いくらいだ。昔は軽自動車といえば、セカンドカーやサードカーとして、安く購入することができ、税金も安いことが魅力だった。
しかし現在はファーストカーとしても普及しており、価格もうなぎのぼりだ。なぜこのような高価格路線に変化したのか? そのワケと、コロナ禍だけではないが今後軽自動車に求められる変化とは何なのか? を考察する。
文/渡辺陽一郎
写真/HONDA、SUZUKI、DAIHATSU、編集部
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■フィットと同等の価格になったN-BOX
最近の軽自動車は価格が高い。軽乗用車の約半数を占める全高が1700mm以上のスーパーハイトワゴンは、コンパクトカーと同等かそれ以上だ。
具体的に国内販売1位のホンダ「N-BOX」を見ると、ノーマルエンジンを搭載する標準ボディの「G・Lホンダセンシング」が154万3300円、エアロパーツを備えた「カスタムG・Lホンダセンシング」は174万6800円になる。価格が最も高い4WDの「カスタムG・EXターボホンダセンシング」は212万9600円だ。
コンパクトカーのホンダ「フィット」は、ノーマルエンジンを搭載する装備のシンプルな「ベーシック」が155万7600円、売れ筋の「ホーム」は171万8200円になる。ベーシックはN-BOXのG・Lホンダセンシング、ホームはカスタムG・Lホンダセンシングと同等だ。
そして、フィットの外観をSUV風にアレンジした「クロスター」の4WDは213万6200円だから、N-BOX・4WDカスタムG・EXターボホンダセンシングと同等になる。N-BOXとフィットに限らず、軽自動車のスーパーハイトワゴンと立体駐車場を利用しやすい背の低いコンパクトカーは、価格帯が合致する。
■初代アルトが切り開いた低価格軽自動車の歴史
かつての軽自動車は、価格と税金の安さが一番の特徴だった。代表車種は1979年に発売されたスズキ「初代アルト」だ。1989年に消費税が導入される前の乗用車には物品税が出荷価格に課せられたが(税額は車両価格に含まれる)、1979年当時の商用車は非課税だった。そこでアルトは、物品税が課税されない商用車のボンネットバンにすることで、価格を47万円に抑えた。コストダウンも激しく、左側の鍵穴まで省いている。
当時のコンパクトカーの価格は、1978年に発売されたトヨタ「スターレット(KP61型)」で見ると、最も安いスタンダードが63万8000円、最上級の5ドアSEは86万1000円だ(価格は東京地区)。アルトの47万円は、スターレットのスタンダードと比べても74%に収まったから大いに注目された。
アルトのヒットを受けて、ほかの軽自動車もボンネットバン仕様を充実させた。消費税が導入されて需要が乗用タイプに移る直前の1988年には、ボンネットバンだけでも1年間に87万台が届け出されている。この台数は軽自動車全体の約50%であった。
軽自動車が安さを重視した背景には、当時のクルマの価格が全般的に高い事情もあった。1979年におけるアルトの47万円を、大卒初任給をベースに今の価値に換算すると89万3000円だ。この価格は現行アルト「L」と同等になる。
今日のアルト Lには、運転席&助手席エアバッグ、横滑り防止装置などの安全装備が標準装着され(衝突被害軽減ブレーキは装着車設定)、エアコン、運転席シートヒーター、アイドリングストップなども備わる。パワーステアリングやエアコンに加えて、左側の鍵穴や時計まで省いた初代アルトとは装備が大幅に違う。
つまり現行アルトは、約40年の時間を隔てて初代と同等の貨幣価値で売られているが、機能は大幅に充実する。逆にいえば、当時のクルマは機能の割に価格が高く、軽自動車では安さが大切なセールスポイントになる時代だった。
このあと、クルマの機能は年々向上していくが、価格はあまり高まらず、時間を経るごとに割安感を強めた。しかも1990年代後半まで、日本の平均所得は上昇傾向にあったから、クルマは一層求めやすくなった。軽自動車も安さだけで選ぶ傾向は薄れ、運転のしやすさなど、小さなボディが生み出す独自の価値が注目されるようになった。
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