軽が安かったのは昔話!? 軽自動車がコンパクトカーより高価格主流になった切実な事情

 近年、軽自動車は200万円することが珍しくなくなっている。むしろコンパクトカーのほうが安いくらいだ。昔は軽自動車といえば、セカンドカーやサードカーとして、安く購入することができ、税金も安いことが魅力だった。

 しかし現在はファーストカーとしても普及しており、価格もうなぎのぼりだ。なぜこのような高価格路線に変化したのか? そのワケと、コロナ禍だけではないが今後軽自動車に求められる変化とは何なのか? を考察する。

文/渡辺陽一郎
写真/HONDA、SUZUKI、DAIHATSU、編集部

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■フィットと同等の価格になったN-BOX

 最近の軽自動車は価格が高い。軽乗用車の約半数を占める全高が1700mm以上のスーパーハイトワゴンは、コンパクトカーと同等かそれ以上だ。

 具体的に国内販売1位のホンダ「N-BOX」を見ると、ノーマルエンジンを搭載する標準ボディの「G・Lホンダセンシング」が154万3300円、エアロパーツを備えた「カスタムG・Lホンダセンシング」は174万6800円になる。価格が最も高い4WDの「カスタムG・EXターボホンダセンシング」は212万9600円だ。

2017年8月にフルモデルチェンジした「現行型N-BOX」。大人気となっているが、その価格は過去の軽自動車とは一線を画した高額化路線をいく

 コンパクトカーのホンダ「フィット」は、ノーマルエンジンを搭載する装備のシンプルな「ベーシック」が155万7600円、売れ筋の「ホーム」は171万8200円になる。ベーシックはN-BOXのG・Lホンダセンシング、ホームはカスタムG・Lホンダセンシングと同等だ。

2020年2月14日から販売を開始した「新型フィット」。シンプルな「ベーシック」が155万7600円と低く抑えられているが、最新のホンダセンシングもしっかり装備している

 そして、フィットの外観をSUV風にアレンジした「クロスター」の4WDは213万6200円だから、N-BOX・4WDカスタムG・EXターボホンダセンシングと同等になる。N-BOXとフィットに限らず、軽自動車のスーパーハイトワゴンと立体駐車場を利用しやすい背の低いコンパクトカーは、価格帯が合致する。

■初代アルトが切り開いた低価格軽自動車の歴史

 かつての軽自動車は、価格と税金の安さが一番の特徴だった。代表車種は1979年に発売されたスズキ「初代アルト」だ。1989年に消費税が導入される前の乗用車には物品税が出荷価格に課せられたが(税額は車両価格に含まれる)、1979年当時の商用車は非課税だった。そこでアルトは、物品税が課税されない商用車のボンネットバンにすることで、価格を47万円に抑えた。コストダウンも激しく、左側の鍵穴まで省いている。

1979年に発売された初代アルト。全長×全幅×全高は3195×1395×1335mm。軽自動車史に残るエポックメイキングな1台だった

 当時のコンパクトカーの価格は、1978年に発売されたトヨタ「スターレット(KP61型)」で見ると、最も安いスタンダードが63万8000円、最上級の5ドアSEは86万1000円だ(価格は東京地区)。アルトの47万円は、スターレットのスタンダードと比べても74%に収まったから大いに注目された。

 アルトのヒットを受けて、ほかの軽自動車もボンネットバン仕様を充実させた。消費税が導入されて需要が乗用タイプに移る直前の1988年には、ボンネットバンだけでも1年間に87万台が届け出されている。この台数は軽自動車全体の約50%であった。

 軽自動車が安さを重視した背景には、当時のクルマの価格が全般的に高い事情もあった。1979年におけるアルトの47万円を、大卒初任給をベースに今の価値に換算すると89万3000円だ。この価格は現行アルト「L」と同等になる。

 今日のアルト Lには、運転席&助手席エアバッグ、横滑り防止装置などの安全装備が標準装着され(衝突被害軽減ブレーキは装着車設定)、エアコン、運転席シートヒーター、アイドリングストップなども備わる。パワーステアリングやエアコンに加えて、左側の鍵穴や時計まで省いた初代アルトとは装備が大幅に違う。

2014年12月にフルモデルチェンジして安っぽさは払拭されたアルト。価格は最も高いグレード「X 4WD(CVT)」でも129万300円となっている

 つまり現行アルトは、約40年の時間を隔てて初代と同等の貨幣価値で売られているが、機能は大幅に充実する。逆にいえば、当時のクルマは機能の割に価格が高く、軽自動車では安さが大切なセールスポイントになる時代だった。

 このあと、クルマの機能は年々向上していくが、価格はあまり高まらず、時間を経るごとに割安感を強めた。しかも1990年代後半まで、日本の平均所得は上昇傾向にあったから、クルマは一層求めやすくなった。軽自動車も安さだけで選ぶ傾向は薄れ、運転のしやすさなど、小さなボディが生み出す独自の価値が注目されるようになった。

■なぜ軽自動車は高価格でも受け入れられるのか!? そのワケ

 この傾向を加速させたのが1993年に発売されたスズキ「初代ワゴンR」だ。1989年に物品税が廃止された後に登場したので、バンではなく乗用車だから後席も広い。天井の高い独創的なボディスタイルも注目された。

 ワゴンRの届け出台数を年別に見ると、1994年:13万台、1995年:18万台、1996年:20万台、1997年:21万台となる。一般的にクルマの売れ行きは、発売から時間を経過すると下降するが、ワゴンRは逆に伸びた。それはワゴンRによって背の高い軽自動車の価値が訴求されて認知度も高め、市場に浸透したからだ。

スズキ「初代ワゴンR」。小さくて室内空間が限られていた軽を背の高さで克服し、スタイルのよさも相まって軽ハイトワゴンという新ジャンルを確立した革新的モデルだ

 初代ワゴンRの価格は、売れ筋の「RX」が108万3000円(3速AT)。アルトやミラなど、それまでの背の低い軽自動車に比べて10~15万円高かったが好調に売れた。

 1998年には、軽自動車の規格が今と同様に刷新された。16車種の新型軽自動車が同時期に発売され、背の高いワゴンRやダイハツ「ムーヴ」は室内をさらに広げている。各車ともエアロパーツを装着したグレードが人気を集め、ワゴンR・RRの価格は120~140万円に達したが好調に売れた。

 ちなみに当時のコンパクトカーの価格は、日産「マーチ」の売れ筋グレードが110~120万円、「キューブ」が140万円前後だから、1998年の時点で軽自動車の価格はコンパクトカーと同等になっていた。軽自動車は小さくても上質で、背の高いボディによって車内は広く、エアロパーツを装着した外観のカッコイイ仕様も選べる。新規格になった軽自動車は、コンパクトカーよりも強い魅力を備えていた。

 当時、軽自動車の販売店からは次のような話が聞かれた。「軽自動車はセカンドカーを含めて複数のクルマを所有するお客様に好まれるから、今でも(約20年前でも)税金の安さは大切だ。しかし低価格を求める傾向は薄れた。コンパクトカーよりも運転しやすく、車内は広く、荷室のアレンジも多彩。これらのメリットを備えるので、価格の安さはあまり問われない」

 2003年には、全高が1700mmを超えるダイハツ「初代タント」が発売され、コンパクトカーよりもさらに広い室内が注目された。後席を畳むと自転車などの大きな荷物も積めた。

2003年生まれの「初代タント」。N-BOXが登場するまでは、長らく軽スーパーハイトワゴンの王座に君臨していた

 2007年には2代目タントが発売され、左側にピラー(柱)を内蔵した開口幅のワイドなスライドドアが装着され、ミニバン的な機能が人気を呼んだ。電動スライドドアがあると、子供を抱えた状態で車内に乗り込みやすい。車内が広いから、子供をチャイルドシートに座らせる作業もしやすく、後席の後ろ側にはベビーカーも収納できる。

2019年に発売された「タント(現行型)」。2代目から採用した、助手席側のピラーをスライドドア内蔵とした「ミラクルオープンドア」は継承している

 2008年にはスズキもスライドドアを備えた背の高い「パレット」を発売して、2011年には「初代N-BOX」が登場して大ヒットした。子育て世代向けのクルマは、それまでは1990年代に普及を開始したミニバンとされたが、2000年代中盤以降は背の高いスライドドアを備えた軽自動車が主流になっている。この状態が今も続く。

■軽自動車=スマートフォン? 若者にも受けるワケ そして今後求めらえる一手

 そしてクルマの価格は、大雑把にいえば機能と部品点数で決まるから、内容が充実すれば価格も高まる。軽自動車のスーパーハイトワゴンが、「フィット」や「ヤリス」と同等の価格になっても当然だ。

 軽好調に売れる背景には、今の若い人達の価値観もある。幼い時から自宅にミニバンがあり、スライドドアに親しんできた。また幼い時から携帯電話やスマートフォンに触れてきたから、コンパクトで高機能な商品を上質あるいは上級ととらえる傾向も見られる。

 今の軽自動車とスマートフォンの価値観は極めて似ていて、若い人達を中心に受け入れやすい。スマートフォンは、機能が優れていれば価格が高くても購入される。軽自動車も同様で、もはや価格の安さと小さなサイズは結び付かない。

 このほか子育てを終えて、ミニバンからコンパクトな車種に移るユーザーのダウンサイジング需要もある。背の高いミニバンに慣れているから、2列シートでも天井は下げたくない。便利なスライドドアも持ち続けたい。そこでコンパクトカーを検討すると、該当車種はトヨタ「シエンタ」「ルーミー/タンク」とスズキ「ソリオ」程度だ。

トヨタ「タンク(写真奥)」「ルーミー(写真手前)」。軽自動車からの乗り換えを狙って開発されたモデルで、子育て世代が求めるスライドドアを装備する。「シエンタ」とともにトヨタの人気車だ
「ソリオ(現行型)」。こちらもクオリティアップを図り、上級へシフトすることで、軽からの乗り換えを狙ったモデルとなっている

 ところが軽自動車ならホンダ「N-BOX」、ダイハツ「タント」、スズキ「スペーシア」、日産「ルークス」など豊富にそろう。軽自動車にはスーパーハイトワゴンが豊富で、コンパクトカーよりも用途や好みに合った車種を見つけやすい。

 以上のような経緯で、価格がコンパクトカーと同等かそれ以上になる軽自動車のスーパーハイトワゴンが好調に売れている。メーカーにとっても粗利の多い高価格車が売れると都合がいいから、ルーフの低い低価格車にはあまり力を入れない。しかしユーザー本位に考えると、もう少し特別仕様車を追加するなど低価格の軽自動車をアピールすべきだ。

 先ほど1990年代後半まで、日本の平均所得はほぼ一貫して上昇傾向にあったと述べたが、それ以降は下落に転じている。直近では少し持ち直したが、今でも20年前の所得水準には戻っていない。

 そのいっぽうでクルマの価格は、安全装備が充実してカテゴリーを問わずこの数年間は上昇傾向にある。ダウンサイジングは、所得の伸び悩みと車両価格の上昇で生まれた市場動向でもあり、改めて良品廉価を見直した軽自動車に力を入れると歓迎されるだろう。

 初代アルトの登場から約40年、初代ワゴンRから30年弱、初代タントから20年弱、初代N-BOXから約10年が経過した今、コロナ禍による時代背景も受けて、改めて初代アルトのコンセプトが求められている。それこそミニバンのダウンサイジング版とは違う、軽自動車でなければ不可能なクルマ造りだ。

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