軽が安かったのは昔話!? 軽自動車がコンパクトカーより高価格主流になった切実な事情

■なぜ軽自動車は高価格でも受け入れられるのか!? そのワケ

 この傾向を加速させたのが1993年に発売されたスズキ「初代ワゴンR」だ。1989年に物品税が廃止された後に登場したので、バンではなく乗用車だから後席も広い。天井の高い独創的なボディスタイルも注目された。

 ワゴンRの届け出台数を年別に見ると、1994年:13万台、1995年:18万台、1996年:20万台、1997年:21万台となる。一般的にクルマの売れ行きは、発売から時間を経過すると下降するが、ワゴンRは逆に伸びた。それはワゴンRによって背の高い軽自動車の価値が訴求されて認知度も高め、市場に浸透したからだ。

スズキ「初代ワゴンR」。小さくて室内空間が限られていた軽を背の高さで克服し、スタイルのよさも相まって軽ハイトワゴンという新ジャンルを確立した革新的モデルだ

 初代ワゴンRの価格は、売れ筋の「RX」が108万3000円(3速AT)。アルトやミラなど、それまでの背の低い軽自動車に比べて10~15万円高かったが好調に売れた。

 1998年には、軽自動車の規格が今と同様に刷新された。16車種の新型軽自動車が同時期に発売され、背の高いワゴンRやダイハツ「ムーヴ」は室内をさらに広げている。各車ともエアロパーツを装着したグレードが人気を集め、ワゴンR・RRの価格は120~140万円に達したが好調に売れた。

 ちなみに当時のコンパクトカーの価格は、日産「マーチ」の売れ筋グレードが110~120万円、「キューブ」が140万円前後だから、1998年の時点で軽自動車の価格はコンパクトカーと同等になっていた。軽自動車は小さくても上質で、背の高いボディによって車内は広く、エアロパーツを装着した外観のカッコイイ仕様も選べる。新規格になった軽自動車は、コンパクトカーよりも強い魅力を備えていた。

 当時、軽自動車の販売店からは次のような話が聞かれた。「軽自動車はセカンドカーを含めて複数のクルマを所有するお客様に好まれるから、今でも(約20年前でも)税金の安さは大切だ。しかし低価格を求める傾向は薄れた。コンパクトカーよりも運転しやすく、車内は広く、荷室のアレンジも多彩。これらのメリットを備えるので、価格の安さはあまり問われない」

 2003年には、全高が1700mmを超えるダイハツ「初代タント」が発売され、コンパクトカーよりもさらに広い室内が注目された。後席を畳むと自転車などの大きな荷物も積めた。

2003年生まれの「初代タント」。N-BOXが登場するまでは、長らく軽スーパーハイトワゴンの王座に君臨していた

 2007年には2代目タントが発売され、左側にピラー(柱)を内蔵した開口幅のワイドなスライドドアが装着され、ミニバン的な機能が人気を呼んだ。電動スライドドアがあると、子供を抱えた状態で車内に乗り込みやすい。車内が広いから、子供をチャイルドシートに座らせる作業もしやすく、後席の後ろ側にはベビーカーも収納できる。

2019年に発売された「タント(現行型)」。2代目から採用した、助手席側のピラーをスライドドア内蔵とした「ミラクルオープンドア」は継承している

 2008年にはスズキもスライドドアを備えた背の高い「パレット」を発売して、2011年には「初代N-BOX」が登場して大ヒットした。子育て世代向けのクルマは、それまでは1990年代に普及を開始したミニバンとされたが、2000年代中盤以降は背の高いスライドドアを備えた軽自動車が主流になっている。この状態が今も続く。

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