■2014年登場時と2020年。変わり続ける情勢のなかでのセダンの現在地
さまざまな意見はあることでしょうが、個人的には、グレイスは「なかなか悪くない車だった」と思っています。
フォルムはけっこうシュッとしていますし、サイズの割に車内はとても広く、エンジン&モーターのフィーリングを含めた広義の乗り味も上質です。
つまり「けっこういい感じの車」だったのです。
そういった「けっこういい感じの車」がてんで売れなかったということは、要するに「ジャンルそのものが死んでいる」ということです。5ナンバーサイズのセダンという畑自体が“終わってる”のです。
この見方には反論もあるでしょう。
例えば「高齢者はそもそもセダンを好み、なおかつ扱いやすくて税金も安い5ナンバーセダンを求めてるじゃないか!」という感じでしょうか。
これは確かにそのとおりで、筆者も、70代ぐらいの上品なご夫婦がブルバードシルフィやトヨタ プログレあたりに乗られている姿をしばしばお見かけします。
しかし率直に言って、購買力が落ちている70代ユーザーに頼った自動車ビジネスが成り立つはずがないのは、火を見るより明らかでしょう。
70代までいかない60代の人も、基本的にはセダンの人気が高かった時代に育った人々ですから、一部の人は5ナンバーセダンを求めるのかもしれません。
しかし筆者が知る限りでは、60代の人の多くは今どき流行りのSUVあたりに興味を持ちながら、演歌ではなくロックンロールを聴いています。
「でも5ナンバーセダンには法人需要ってやつがあるぞ!」という反論もあるでしょう。
これまた確かにそのとおりですが、どうなんでしょうか? 重役さんが乗るクラウンとかではなく、かといって第一線で働く人にとって便利なトヨタ プロボックスみたいな車でもない。
「5ナンバーサイズのセダン」がどうしても必要なビジネスパーソンって、どんな人なんでしょうか?
……クラウンがあてがわれるほどエラくはないけど、プロボックスや軽だとちょっと格好がつかない「ホワイトカラーの中間管理職」でしょうか?
以前はそういった需要が確実にあったのかもしれません。しかしホワイトカラー中間管理職の存在意義そのものが問われている昨今、そのセグメントの需要がぐっと伸びるとは考えにくいはずです。
あとは「海外のアジア圏ではまだまだセダンが好まれている」という意見もあるかと思います。
これもそのとおりなのですが、しかし最近は、例えばタイあたりでも自動車に関する嗜好が多様化していて、若い方を中心に「セダンじゃなくてSUVのほうがいい」と考える人が増えています。
ちなみにこれは筆者がテキトーな妄想として言っているわけではなく、野村総合研究所が2018年4月に公開した資料に書いてあったことです。
それによれば2015年以降、タイでもカローラなどからSUVおよび小型MPVへと人気がシフトしはじめたそうです。
2014年12月にホンダ グレイスが発売された頃は、いや、その開発が行われていた頃は、「5ナンバーセダンを求めている人、あるいは『フォーマルなセダンに戻りたい』と考えている人は、まだたくさんいるはず!」と考えられていたのでしょうし、実際、そのとおりだったのだと思います。
その読みに基づき、ホンダはなかなか素晴らしいフォルムと性能の5ナンバーセダン、すなわちグレイスを作り上げました。
しかしその後、世の中の潮流が思いのほか早く変化してしまったことが、グレイスにとっては不幸でした。仕方のない話ではあるのですが、やっぱりちょっと残念には思います。
■ホンダ グレイス 主要諸元
・全長×全幅×全高:4440mm×1695mm×1475mm
・ホイールベース:2600mm
・車重:1200kg
・エンジン:直列4気筒DOHC+モーター、1496cc
・最高出力:110ps/6000rpm(システム最高出力137ps)
・最大トルク:13.7kgm/5000rpm
・燃費:31.4km/L(JC08モード)
・価格:221万円(2014年式 ハイブリッドEX)
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