日産がエルグランドにe-POWERを搭載しない切実な裏事情

 日産自動車は「エルグランド」をマイナーチェンジし、2020年10月12日から発売した。しかし、その内容は外観の変更と先進安全装備の強化くらいと、期待していた人にとっては、もう少し踏み込めなかったのか? と思う部分もあった。

 10年も延命させたのであれば、セレナのようにe-POWERを搭載して再躍進を狙ってもいいはずですが、なぜ日産はエルグランドでそれをしないのか? ライバルである、トヨタ「アルファード/ヴェルファイア」、ホンダ「オデッセイ」に比べると消極的な印象を受けてしまうのはなぜなのか……。

 日産のフラッグシップミニバンであるエルグランドだが、もう商売にならないと踏んであくまで延命のみなのか? それとも起死回生の一手のための布石なのか? その事情について斬り込んでいきたい。

文/渡辺陽一郎
写真/NISSAN
CG/ベストカー編集部

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■設計の古さが招いた進化の停滞 広がるライバルとの差

 日産「エルグランド」が2020年10月12日にマイナーチェンジを行ったが、変更内容は予想に反して小さかった。フロントマスクのデザインは相応に変化したが、安全装備の水準は、設計の新しいほかの日産車に近付いた程度だ。率先して先進機能を採用したわけではない。

マイナーチェンジ後の「250ハイウエイスターS」。グリルを中心としたエクステリアデザインを変更するとともに、全方向から運転をサポートする360° セーフティアシストを全車標準装備した
マイナーチェンジ前のエルグランド。日産のフラッグシップミニバンながら、エクステリアの大幅変更は5年前の2014年から施されていなかった

 エルグランドは日産の中心的なミニバンだ。初代モデルは1997年に発売され、1998~1999年頃は、1カ月に4000~5000台を登録していた。今の「ノート」や「セレナ」に匹敵する売れ行きだった。

 ところが2代目と現行型の3代目は、ライバル車のトヨタ「アルファード/ヴェルファイア」に押されて売れ行きを下げてしまう。現行型の登録台数は、コロナ禍の影響を受ける前の2019年でも、1カ月平均が約560台に留まった。アルファードの10%以下だ。現行型の発売は2010年だから、設計の古さもあり、売れ行きが低迷する。

初代は「キャラバンエルグランド」もしくは「ホーミーエルグランド」という名前だった。1999年にマイナーチェンジを実施し、車名を「エルグランド」に統一
2002年に2代目へとモデルチェンジ。FRと4WDは踏襲し、リアにはスカイラインやフーガにも採用した高性能なマルチリンク式サスペンションを採用するなど、「走り」へのこだわりを貫いていた

 そこで迎えたマイナーチェンジだから期待もあった。三菱「デリカD:5」のように、マイナーチェンジでも大幅に進化するのではないか、e-POWERやプロパイロットを積むのか、という憶測を呼んだ。それなのに現実は冒頭で述べたとおりだ。

 消極的な変更に終わった一番の理由は、多額のコストを費やして大幅に進化させても、それに匹敵するだけ売れる自信を持てないからだ。背景には複数の事情が考えられる。まずはミニバンの市場動向だ。最近は法人がミニバンをビジネスに使う傾向も見られるが、中心はあくまでもファミリーユーザーになる。少子高齢化の現状を考えると、ミニバンの需要がいつまで続くかわからない。

 ふたつ目の理由は、ライバル車となるアルファードの売れ行きだ。先に述べた通り、アルファードはエルグランドの10倍以上も登録されている。もはやアルファードがLサイズミニバンの定番で、エルグランドは売れ行きを伸ばせない心配もある。

 また同じ日産のセレナは、エルグランドとは対称的に販売は好調だ。日産のミニバン市場はセレナが支えるから、エルグランドは頑張る必要がない、という判断も成り立つ。

e-POWERが追加された2018年3月以降、大人気となったセレナ。2018年、2019年のミニバン販売台数1位している。フロントマスクが精悍なデザインに変更されただけでなく、「e-POWER」「プロパイロット」という武器も手に入れた

 そしてエルグランドが販売を低迷させる背景には、明確な理由がある。背の高いLサイズミニバンでありながら、空間効率が低く、3列目シートも膝の持ち上がる座り方になって窮屈なことだ。Lサイズミニバンにとって、多人数乗車が不得意では、大きな欠点になってしまう。

 荷室の使い勝手もよくない。3列目の畳み方は、背もたれを前側に倒す方式だから、畳んだ時にはシートの厚みで荷室の床が高くなってしまう。3列目を左右に跳ね上げるアルファードやセレナ、床下格納のオデッセイに比べて、自転車のような大きな荷物を積みにくい。

 その結果、エルグランドの3列目の居住性、荷室の広さと使い勝手、シートアレンジは、すべてミドルサイズのセレナに負けている。天井が中途半端に低く、外観の存在感もいまひとつ弱い。これらの欠点を刷新させるには、フルモデルチェンジを行う必要がある。

 言い換えるとマイナーチェンジでは、セレナやライバル車を上まわる商品力を身に付けられない。フルモデルチェンジが必要だが、前述のとおり今後のミニバン市場などを考えるとそれはできないから、コストを抑えた最小限度のマイナーチェンジを実施した。

 e-POWERやプロパイロットを採用しなかったことも、同じ理由に基づく。これらの先進機能を採用するには、フルモデルチェンジが必要だ。仮にマイナーチェンジで対応できたとしても、高額の開発コストを要することに変わりはない。

 エルグランドでは、さまざまな部分に設計の古さも散見される。例えば2列目のセパレートシートには、背もたれの上側が折れ曲がる「中折れ機能」を採用した。背もたれを後方へ倒した状態でも、顔は前方に向けて、リラックスできる機能だ。オットマンも装着されるから、軽く寝そべった姿勢を取りやすい。

 この状態で前面衝突事故が発生すると、シートベルトの乗員拘束力が下がる。そこで今のミニバンの2列目に装着されるシートベルトは、セレナを含めて、ピラー(柱)ではなく背もたれから引き出す。この方式ならスライド位置やリクライニング角度が変わっても、シートベルトを乗員に密着させやすい。今はこの方式が常識になった。

 しかしエルグランドでは、2列目のシートベルトをピラーから引き出す古い方式だ。万一の時に、乗員拘束力が不十分になる。改善して欲しいが、マイナーチェンジでは難しい。シートベルトを背もたれから引き出す方式では、衝突時の負荷をすべてシートの脚で受け止めるから、スライドレールやフロア部分を含めて、高い強度を持たせねばならない。フルモデルチェンジが必要だ。

エルグランドの2列目のセパレートシート。背もたれの上側が折れ曲がる「中折れ機能」を採用、シートベルトhピラーから引き出す古い方式だ

■消滅の可能性ありも 簡単に切れない日産の御家事情

 このように安全面を含めて旧態依然としたエルグランドを売り続けるなら、廃止する方法もあるが、それもできない。1カ月平均で約560台の販売規模は、クルマが売れない今では、廃止するには惜しいからだ。

 しかもエルグランドは、売れ筋の価格帯が370~450万円の高価格車になる。セレナの300~360万円を大幅に上まわり、メーカーと販売会社の双方にとって利幅が大きい。これも廃止しにくい理由だ。

 以上のような事情により、エルグランドは発売から10年を経ながら、フロントマスクを刷新するマイナーチェンジを実施した。外観が変化すると、従来型からの乗り替えも促しやすいからだ。

 一般的に車種を継続的に存続させる場合、遅くとも発売から10年後には、フルモデルチェンジを実施する。10年後にマイナーチェンジを実施したエルグランドは、フルモデルチェンジを行わずに消滅する可能性も考えられる。最終型のエスティマも、発売の10年後にフロントマスクを大きく変えるマイナーチェンジを実施して、その3年後に終了しているからだ。

 ただトヨタの場合は、エスティマと同サイズのミニバンに、高人気のアルファード/ヴェルファイアがある。そうなれば市場の縮小に応じてエスティマを廃止するのも理解できるが、日産は事情が違う。エルグランドは唯一の上級ミニバンで、フーガの1カ月平均の登録台数が約90台、シーマは10台少々まで落ち込んだ今、実質的に日産の最上級車種にも位置付けられる。

 従ってエルグランドの存在感と国内市場で果たす役割は、今でも大きい。今後の日産は国内市場に改めて力を入れる方針を打ち出しているので、エルグランドも前向きにフルモデルチェンジして欲しい。生まれ変わった新星エルグランドを待っているユーザーも多い。

一時期、次期型エルグランドの開発凍結の情報があったが、最新の情報によれば、フルモデルチェンジに向けて開発は進んでいるという(CGイラストはベストカーが製作したもの)

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