■ターボ化は必然の流れ
こうなってきた理由は、緻密な燃焼制御ができるようになったおかげで、ターボ化によるデメリットが解消されたため、というのは皆さんもご存じだろう。
自動車メーカーはこれまで、あくまで「アウトプットのパフォーマンスを達成するための手段」として、排気量アップをしてきた。しかし、技術の進化により、ターボエンジンの弱点であった、アクセル操作に対するトルクの立ち上がりのレスポンスが上がり、燃費も以前よりは改善傾向となった。しかも、ターボ化によって、排気量を抑えられれば、エンジンを小さく軽くでき、クルマの運動性能に多大なメリットをもたらしてくれる。
例えば、一般的なスポーツカーに多いFRレイアウトの場合だと、エンジンが大きく重たいほど、重量配分が50:50から離れ、フロントヘビーとなっていく(MRやRRだと、逆にリアヘビーとなる)。
フロントヘビーは、ハンドリングの俊敏さに悪影響を及ぼし、コーナリング特性もアンダーステア傾向となってしまう。それをリカバーしようとなると、サスペンション設定やタイヤ剛性、車体に無謀な対策を施すことになってしまい、本来は、乗り心地改善やロードノイズ低減に振り分けたいポテンシャル(キャパシティ)を、そこへ使わざるを得なくなる。そのため、快適性を含めたクルマのポテンシャルが低くなってしまうのだ。
筆者も、メーカーエンジニアとして働いていた時、まさにこの状態に陥ってしまったクルマに携わった経験がある。無理を強いられたタイヤやサスペンションはガチガチに硬く、ロードノイズもうるさくて、とても快適とは言えないクルマになってしまっていた。このように、クルマを造る側からすれば、パワートレーン、主に最重量物のエンジン自体の軽量化は悲願であり、ターボの弱点が解消された今、ターボ化に舵を切るのは、必然なのだ。
■生き残る可能性は、ない
500psオーバーが求められるようなハイパフォーマンスなスポーツカーでは、NAエンジンが生き残る可能性は、残念ながら、ない。小排気量化+ターボ化の道へと、今後も進むと考えられ、さらには、現在、3Lターボのエンジンも、数年後に、2.5Lターボ+ハイブリッドあたりに進化するのでは? というのが筆者の予測だ。
だが、大排気量NAエンジンが持つ、低速域から豊かなトルクは、そのフィーリングを知っているものからすれば、忘れられない長所だ。先日、3.5LのV6エンジン搭載車に乗る機会があったが、昨今のハイブリッド車やターボ車で慣らされた身としては、走り始めのドロドロとした低回転のサウンドや振動に、懐かしさを覚えた。
生き残る道があるならば、レクサス「LC500」のようなラグジュアリードライブを優先した、官能的なスポーツGTカーだろうが、そうしたコンセプトは、時代に則していないのは、皆さんもご承知のとおりだ。
■存続してほしいとは思うが、消えゆくユニット
もはや、大排気量NAエンジンのスポーツカーは、完全に贅沢品、嗜好品となっている。しかしながら、出足のトルクが欲しい大型SUVやピックアップなどでは、4L、5LクラスのV6、V8形式のNAエンジンが、いまも使われている。
例えば、北米市場向けピックアップの5.7L V型8気筒NAエンジン(381ps)を積むトヨタ「セコイア」や、5.6L V型8気筒NAエンジン(390ps)の日産「アルマーダ」など、小型のボートやジェットスキー、トレーラーハウスを牽引するようなトーイング性能が求められるクルマだと、NAエンジンの低速域から湧き出るトルクは必須となる。
しかしこれらのクルマも、いずれは、ハイブリッドやPHEVなど、電動化という世代交代が待っているだろう。
「大排気量NAエンジンを残してほしい」という、心理的な願望がある方は多いと思うが、技術的には廃止されていく、というのが冷静な見解だ。
新車では買えなくなるだろうが、手ごろになった大排気量NAエンジンのスポーツカーを中古車で選ぶ楽しみは残されている。2017年に生産終了となってしまった、排気量8.4LのV10 NAエンジンを搭載した「ダッヂ・バイパー」のようなマッスルカーが、懐かしい。
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