先日、プロトタイプが公開された、日産の「新型フェアレディZ」。詳細なスペックなどは現時点明らかにされていないが、V6ツインターボの搭載と、6速MTの採用は公表されている。
このV6ツインターボはおそらく、「V37型 スカイライン400R」に搭載されている3L V6ツインターボ(VR30DDTT)、または、そのZ専用チューニング版になるだろう。
Z33型(VQ35DE:3.5L V6 NAエンジン)、Z34型(VQ37VHR:3.7L V6 NAエンジン)と、2世代にわたり大排気量NAエンジンを搭載してきたフェアレディZだが、次期型では3Lターボへのダウンサイジングで生き残りをかけることになる。
「Zまでターボか……」と思った方も多いだろう。かつては「スポーツカーの魅力」といわれていた大排気量NAエンジンだが、いまや絶滅の危機にある。大排気量のNAスポーツカーは、このまま絶滅の道を進むことになるのだろうか?
文/吉川賢一
写真/NISSAN、TOYOTA、LEXUS、編集部
【画像ギャラリー】「フェアレディZ 、おまえもか!」 かつての大排気量NAエンジンからターボ化したスポーツモデルたち
■現存するのは、現行Zを除けばレクサスのみ
手始めに、国内自動車メーカーにある大排気量NAエンジンのスポーツモデルの状況を振り返っておこう。
冒頭で触れたとおり、「現行フェアレディZ」には、3.7L V6 NAエンジン(336ps/37.2kgm)、そして「フェアレディZ NISMO」に、専用チューンによってパワーアップがなされたNAエンジンがある(355ps/38.1kgm)が、Z以外の日産車には、大排気量NAエンジンのモデルはない。
トヨタは、というと、「スープラ」のエンジンが、3L直6ツインターボ(387ps/51.0kgm)と、出力違いとなる2種類の2L 直列4気筒ターボと、なっており、どちらもNAではない。「86」に搭載されている2L水平対向4気筒ボクサーエンジン(207ps/21.6kgm ※MTモデル)は、NAエンジンではあるが、大排気量とはいえない。
ホンダは、「NSX」が3.5L V6ツインターボ(507ps/56.1kgm)、「シビックタイプR」が2L直4 VTECターボエンジン(320ps/40.8kgm)と、どちらもNAエンジンではない。マツダの「ロードスター」は、1.5L直4のNAエンジンを積んではいるが、86と同じく、大排気量とはいえない。
唯一、大排気量NAエンジンのモデルがあるのが、レクサスだ。レクサスでは、「LC500」に5L V8のNAエンジン(477ps/55.1kgm)、「RC350」には3.5L V6のNAエンジン(318ps/38.7kgm)、「RC F」には5L V8のNAエンジン(481ps/54.6kgm)のモデルが、ラインナップされている。
「え!? もっとあったのでは!? 」と感じるかもしれないが、ハイパフォーマンスカーのエンジンは、軒並みターボ化されており、いわゆるスポーツカー用の大排気量NAエンジンは、絶滅に近い状態なのだ。
■ターボ化は必然の流れ
こうなってきた理由は、緻密な燃焼制御ができるようになったおかげで、ターボ化によるデメリットが解消されたため、というのは皆さんもご存じだろう。
自動車メーカーはこれまで、あくまで「アウトプットのパフォーマンスを達成するための手段」として、排気量アップをしてきた。しかし、技術の進化により、ターボエンジンの弱点であった、アクセル操作に対するトルクの立ち上がりのレスポンスが上がり、燃費も以前よりは改善傾向となった。しかも、ターボ化によって、排気量を抑えられれば、エンジンを小さく軽くでき、クルマの運動性能に多大なメリットをもたらしてくれる。
例えば、一般的なスポーツカーに多いFRレイアウトの場合だと、エンジンが大きく重たいほど、重量配分が50:50から離れ、フロントヘビーとなっていく(MRやRRだと、逆にリアヘビーとなる)。

フロントヘビーは、ハンドリングの俊敏さに悪影響を及ぼし、コーナリング特性もアンダーステア傾向となってしまう。それをリカバーしようとなると、サスペンション設定やタイヤ剛性、車体に無謀な対策を施すことになってしまい、本来は、乗り心地改善やロードノイズ低減に振り分けたいポテンシャル(キャパシティ)を、そこへ使わざるを得なくなる。そのため、快適性を含めたクルマのポテンシャルが低くなってしまうのだ。
筆者も、メーカーエンジニアとして働いていた時、まさにこの状態に陥ってしまったクルマに携わった経験がある。無理を強いられたタイヤやサスペンションはガチガチに硬く、ロードノイズもうるさくて、とても快適とは言えないクルマになってしまっていた。このように、クルマを造る側からすれば、パワートレーン、主に最重量物のエンジン自体の軽量化は悲願であり、ターボの弱点が解消された今、ターボ化に舵を切るのは、必然なのだ。
■生き残る可能性は、ない
500psオーバーが求められるようなハイパフォーマンスなスポーツカーでは、NAエンジンが生き残る可能性は、残念ながら、ない。小排気量化+ターボ化の道へと、今後も進むと考えられ、さらには、現在、3Lターボのエンジンも、数年後に、2.5Lターボ+ハイブリッドあたりに進化するのでは? というのが筆者の予測だ。
だが、大排気量NAエンジンが持つ、低速域から豊かなトルクは、そのフィーリングを知っているものからすれば、忘れられない長所だ。先日、3.5LのV6エンジン搭載車に乗る機会があったが、昨今のハイブリッド車やターボ車で慣らされた身としては、走り始めのドロドロとした低回転のサウンドや振動に、懐かしさを覚えた。
生き残る道があるならば、レクサス「LC500」のようなラグジュアリードライブを優先した、官能的なスポーツGTカーだろうが、そうしたコンセプトは、時代に則していないのは、皆さんもご承知のとおりだ。
■存続してほしいとは思うが、消えゆくユニット
もはや、大排気量NAエンジンのスポーツカーは、完全に贅沢品、嗜好品となっている。しかしながら、出足のトルクが欲しい大型SUVやピックアップなどでは、4L、5LクラスのV6、V8形式のNAエンジンが、いまも使われている。
例えば、北米市場向けピックアップの5.7L V型8気筒NAエンジン(381ps)を積むトヨタ「セコイア」や、5.6L V型8気筒NAエンジン(390ps)の日産「アルマーダ」など、小型のボートやジェットスキー、トレーラーハウスを牽引するようなトーイング性能が求められるクルマだと、NAエンジンの低速域から湧き出るトルクは必須となる。
しかしこれらのクルマも、いずれは、ハイブリッドやPHEVなど、電動化という世代交代が待っているだろう。
「大排気量NAエンジンを残してほしい」という、心理的な願望がある方は多いと思うが、技術的には廃止されていく、というのが冷静な見解だ。
新車では買えなくなるだろうが、手ごろになった大排気量NAエンジンのスポーツカーを中古車で選ぶ楽しみは残されている。2017年に生産終了となってしまった、排気量8.4LのV10 NAエンジンを搭載した「ダッヂ・バイパー」のようなマッスルカーが、懐かしい。