フルフラットシートにご用心 意外と知られていない快適性追求で失われるもの

衝突安全性に矛盾のあるクルマがある

 前席後席ともフラットのスタイルにするためには、前席のヘッドレストを外して、後ろ側もしくは前側へ倒す必要がありますが、室内長が短いクルマの場合、前席シートバックが大きい(長い)と、後席座面(前側に倒した場合はダッシュボード)との距離がとれずにぶつかってしまい、きれいにフラットにならない場合があります。

 これを成立させるため、前席シートバックのショルダーラインを、乗員の肩の高さよりも下げ、ヘッドレストのサイズ(長さ)を大きくして、帳尻を合わせている場合があります。これが、筆者が課題と考えるケースです。

 本来、シートバックは、乗員の肩よりも上まであるのが、シート設計のセオリーです。なぜなら、事故の際、エアバッグが展開すると、人体は前から強い衝撃を受け、後方に押し出されます。

 シートバックには、この押し出された人体を受け止める、という重要な役割があるのですが、シートバックが小さいと、シートバックが力を受け止めきれなくなることも考えられ、最も守らなければならない首や、身体へのダメージが増えてしまうことに繋がってしまいます。

 シートバックは肩の高さまでしっかりと作り、ヘッドレスト自体もしっかりとした剛性を確保していないとならないのです。

シートバックは人の肩の高さまでしっかりと作ってほしい、ヘッドレストのアームの長さで帳尻を合わせるのは最終手段としたい
シートバックは人の肩の高さまでしっかりと作ってほしい、ヘッドレストのアームの長さで帳尻を合わせるのは最終手段としたい

 この形状であっても、当然ながら、国土交通省が定めた衝突試験法規の内ではクリアしているわけですが、この、商品性を重視しすぎた設計思想には疑問がわきます。シート開発担当の方々も当然分かっているでしょうが、シート本来の役割を削ってまで、シートのフルフラット化を優先することがあってはならない、と考えます。

 ちなみに、政府の統計データによると、昨年度の交通事故発生件数は、全国で38万1237件、そのうち、追突事故は12万6062件。なんと、交通事故の3件に1件は追突事故なのです(政府統計ポータルサイト「e-Stat」、事故類型別交通事故件数による)。

 それほど多く発生している追突事故に対しての対策よりも、シートアレンジを優先しているクルマを、皆さんはどのように考えるでしょうか。

ブレークスルーなのか、矛盾なのかを見抜く

 コンパクトなクルマでも、ゆとりのある大きめのフロントシートを装着し、見た目のしっかり感も感じられる、素晴らしい設計のシートが多くあります。

 フルフラットシートに限らず、できることが増えたのは、どこかでブレークスルーが起きたか、反対に矛盾が生じている可能性があります。作り手も、ユーザーも、冷静な目で見て、納得したうえで、クルマを検討することをお勧めします。

【画像ギャラリー】コンパクトでフルフラットシートになり充分にフロントシートが大きいクルマたち

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