2020年7月にタイで世界初披露され、同時に発売を開始した、トヨタの新型クロスオーバーSUV、カローラクロス。この発売時点では、タイを皮切りに、導入国を拡大していく計画だとしていたが、日本導入への言及はなかった。
しかし、来年秋にも日本導入される、との情報がでており、トヨタの動向に注目が集まっている。おそらく、このカローラクロスと競合する、キックスを抱える日産、ヴェゼル擁するホンダは、対策を急いでいることだろう。
2019年末のライズに始まり、ハリアー、RAV4PHV、そしてヤリスクロスなど、コロナ禍をものともせず、新型SUVを続々と登場させているトヨタだが、果たして、これら既存のSUVたちと、どう売り分けていくのか。本稿では、他メーカーのライバルたちと比較するとともに、これら身内のライバルたちとの売り分けについても、考察していく。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、NISSAN、HONDA
【画像ギャラリー】日本未発売&未公開の新SUV「カローラクロス」内外装写真をずらり紹介!!
C-HRとRAV4の中間
カローラクロスには、カローラシリーズと同じくTNGA(GA-C)プラットフォームが採用されている。ボディサイズは、4460×1825×1620mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2640mm。C-HRが4360×1795×1550mm、RAV4が4600×1855×1685mmであるので、カローラクロスは、ちょうどC-HRとRAV4の間を埋めるサイズということになる。
カローラ兄弟の中では、カローラツーリング(4495×1745×1460mm)と全長はほぼ同じで、全幅が80mmワイド、というサイズ感だ。
パワートレインは、1.8L直4エンジン+モーターのハイブリッド(リダクション機構付きTHS II)と、1.8L直4ダイナミックフォースエンジン(140ps/18.1kgm)の2本立てで、トランスミッションは、ハイブリッドが電気式無段階変速機、ガソリンがCVTとなる。このあたりは、日本で販売されているカローラに準じているようだ。
ただし、リアサスペンションは、他のカローラシリーズがダブルウィッシュボーン式を採用しているのに対し、カローラクロスはトーションビーム式となる。トーションビーム式としたことで、リアサスペンションのフロア側への張り出しを抑え、コストも下げながら、広い居住空間とクラストップレベルのラゲージスペースを実現している、という。
だが、後輪の左右輪が逆相の動きをするとストロークが取りにくく、オフロードの走破性は期待ができない。またタイでは、現時点、FFモデルのみであり、4WDモデルについては言及がない。カローラクロスはSUVに求められる「積載性」を優先し、同じくSUVに求められる「走破性」は、二の次としたようだ。
インテリアに関しては、ステアリングホイールやシフトノブ、エアコンの吹き出し口等は、他のカローラシリーズと近しい造形となっている。ただし、ダッシュボード付近のデザインやインパネにあるシルバーの加飾などは、カローラクロスのオリジナルだ。なお、9インチディスプレイオーディオは標準装備となっている。
価格は、タイ価格で、ハイブリッドが1,019,000~1,199,000バーツ(日本円にすると約344~405万円)、ガソリンが989,000バーツ(約334万円)となる。
タイでは、ヤリスが549,000バーツ(約185万円)、C-HRが979,000バーツ(約331万円)、と、日本市場の値付よりもだいたい50万円ほど高めになっていることを考えると、カローラクロスのエントリーグレードは、280万円程度になる、と予想される。
ライバルはキックス、ヴェゼル、そしてC-HR
カローラクロスの国内でのライバルは、日産キックスとホンダヴェゼル、そして身内では、ヤリスクロスとC-HRあたりだろう。
2013年に登場したホンダヴェゼルはモデル末期に近い。フィットが新型へと世代交代したことで、ヴェゼルもあと1、2年でフルモデルチェンジが行われるだろう。現行モデルは、特別装備の限定仕様車や、値引きの幅の拡大もあるだろうが、カローラクロスがデビューする2021年には、おそらくヴェゼルは次期型となっているだろう。
筆者は、ヴェゼルは次期型でやや上級へシフトする、とみている。とすると、カローラクロスとはガチンコ対決となる。この、次期型ヴェゼルとカローラクロスとの新型車対決は、面白くなりそうだ。
キックスは、e-POWERによる動力性能や、ハンドリング性能は、相当な実力を持ってはいるが、約276万円(グレードX)~という高めの価格や、4WDモデルがない点が惜しいところだ。だが、カローラクロスも現時点FFのみ、価格帯もおそらくかぶるため、この2台も、良い勝負となるかもしれない。
そして、キャラクタ的に最も近いのはC-HRだ。C-HRとカローラクロスは、同じ世代のTNGAプラットフォームではあるが、より走りに特化したC-HRと、やや緩めのカローラクロス、といった感じで、ターゲットがまるかぶりするわけではない。
と、考えると、共存もできなくはない、とも思えるが、そこまでクルマのキャラクタを知ったうえで購入する人は多くはないだろう。カローラクロスが導入されたとき、最も影響が出るのは、おそらくC-HRだろう。
売り分けはしなくていい
トヨタの国内のSUVラインアップは、レクサスブランドも入れれば、合計で12車種もある。サイズの違いやパワートレインの違いはあるにせよ、どう見てもオーバーラップする部分が多い。
前述したように、カローラクロスは、C-HRとRAV4の隙間を狙うことになる。タイでカローラクロスが成立しているのは、ヤリスクロスやRAV4がラインアップにいないからだ(カローラクロスのすぐ上は、ラダーフレームのフォーチュナーや、ピックアップトラック系になる)。
カローラクロスは、やや欧州車の香りがするデザインとなっており、同じく欧州チックなヤリスクロスがウケていることを考えると、カローラクロスも支持される可能性はあるが、積極的にカローラクロスを選ぶ理由には、程よいリーズナブルさも、重要なポイントになるはずだ。
カローラクロスがヒットするには、C-HRと同価格帯(ハイブリッドは約274万円~、ガソリンCVTは約241万円~)までに下げる必要はあるだろう。
だが、「喰い合い」が起きるのは想定しながらも、トヨタは、カローラクロスも日本に導入するつもりだろう、と筆者は考える。それは、真の目的が、他社車からの乗り換えを促進すること、トヨタの販売シェアを、じりじりと押し上げることにあるからだ。
国内のライバルメーカーは、指をくわえてみている場合ではない。海外に注力したほうが商売になる、というのは理解できるが、このままでは、本国日本でのシェアは小さくなるばかりだ。
本国で廃れてしまったブランドに、説得力はなくなる。「2台に1台がトヨタ車」となるまえに、何とか海外専売SUVを持ってくるなどで、巻き返しを図ってほしい。