■ミニバン世代に刺さるプチバンの使い勝手
以上のように今のプチバン市場は、実質的にルーミーとソリオで成り立つ。ポルテ&スペイドなどの設計が古くなり、車種も減って、ルーミーとソリオに人気が集中した。
それならどうして、車種が少ないのに、プチバンというカテゴリーはニーズが高いのか。トヨタの開発者に尋ねると、以下のように返答された。
「今の子育て世代のお客様には、ミニバンで育った人達も多い。高い天井による広くて解放的な室内に慣れていて、後席のドアもスライド式が当たり前だ。そこで2列シートのコンパクトカーでも、馴染みのあるミニバンと同様、背の高い車種を好む」
ステップワゴンのようなミニバンは、1990年代の中盤から急速に普及した。そのために現時点で30歳以下の世代には、幼い頃からミニバンに親しんで育った人が多い。3列シートまでは必要ない場合、2列シートにスライドドアを組み合わせた車種が選ばれる。
トヨタの販売店では、観点の異なる話を聞けた。
「ルーミーは、ノアのようなミニバンを使い終えたお客様からの乗り替えも多い。子育てを終えると3列のシートは必要ないが、天井の高いボディに慣れると、背の低いセダン、ワゴン、コンパクトカーには戻れないからだ」
「そこで以前ミニバンに乗っていたお客様は、ミニバンのボディを短くしたような背の高いルーミーを好まれる。後席を畳むと自転車なども積めるから、多人数乗車はできなくても、実用性はミニバンに近い」
スズキの販売店では、ダウンサイジングとは異なるアップサイジングの話を聞けた。
「今は小さなクルマに乗り替えるお客様が増えたが、その一方で、数は少ないもののアップサイジングするお客様もおられる。スペーシアのような背の高い軽自動車のお客様が、小型車に乗り替える場合は、ソリオを指名される」
「シートアレンジなどの使い勝手はスペーシアとほぼ同じで、全長と全幅は小さく抑えたから、運転感覚も軽自動車に近い。その一方で動力性能と直進安定性は、軽自動車に比べると大幅に向上する。だから引っ越しや生活環境の変化で高速道路を使う機会が増えたお客様は、ソリオに乗り替える」
このようにプチバンは、軽自動車のN-BOX、タント、スペーシアなどと同様、国内市場に適したコンパクトカーだ。ミニバンの普及を前提に開発され、日本のユーザーの生活を見据えた商品造りが人気を呼んだ。
■人気のプチバン なぜ他社は発売せず?
その代わり海外では売りにくく、日本で大量に販売する必要があるため、商品化できるメーカーは限られる。「国内市場に向けた本気度」が問われ、軽自動車を中心に扱うスズキとダイハツ、国内に膨大な販売網を持つトヨタしか実質的に販売できない。
そのためにプチバンは車種数が限られ、需要も集中して、ルーミーとソリオは売れ行きをさらに伸ばした。また最近はSUVが世界的に人気を高めたので、海外を重視するメーカーは、プチバンよりもコンパクトSUVを優先的に開発する事情もある。
それでもホンダは、N-BOXを筆頭に、軽自動車のNシリーズをそろえる。軽自動車から小型車にアップサイジングするユーザーも生じるので、フィットの背を高くしたようなプチバンがあっても良い。フリードとフリードプラスではボディが大きく、中間的な背の高い車種が求められている。
日産では、スライドドアは備えていなかったが、先ごろ終了したキューブがプチバンだった。以前は後継車種も企画していたが、2008年のリーマンショックによる世界的な経済不況で、コンパクトミニバンと併せて凍結された。
それでも最近の日産は、国内市場に改めて力を入れる姿勢を見せている。ノートのプラットフォームとe-POWERを使ったプチバンは開発される可能性がある。
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